もちろん、子どもたちにも心配や恥ずかしい感情はあって、作品としてはシンプルに分かりやすくするために前作では絞られ、続編での登場になったと思うが、それによって思春期の複雑さがよく表現されてもいると感じた。かつ大人になっていく段階の本質を捉えることに成功している。
そんな感情キャラクターがいる頭の中では、ライリーに何かあれば、司令部のキャラクターたちはボタンをポチっと押して対応する。そこに、最新の「ライリー保護システム」ではボール状で表されたネガティブなことや恥ずかしかったことを「記憶の外れ」と呼ばれる場所にチューブを使って送ってライリーの心を守ろうとし、秘密が閉じ込めてある部屋や、意識したことが流れる川などがあって、いろんなことを経てライリーという人となりが形成されているのだと見せる。それが何とも楽しいのだ。
皮肉なことを考えたら裂け目ができるとか、食べ物のことを考えたら川に野菜などが流れるとか、思い出の玉がずらっと並んでいるとか、本当にそうなってるかもしれないという具現化。作品を見終わった後、いや、見ている途中から自分の感情キャラクターたちが自分の中で同じように動いているのかもしれないと思うと楽しくなってくる。
感情たちがどうしてこうなるのかということは、恐らく子どもたちよりも経験談のある大人のほうが理解できるだろう。しかし、今作では司令部を新しい感情たちに追い出されたヨロコビたちが何とか戻ろうとする冒険譚的な面白さがあって、子どもたちの心を捉えるはずだ。
その細やかな描写のすごさに加え、特筆すべきはライリーが経験したことから生まれることを光のラインで表した「信念の泉」。ピクサーのCG技術が結実した映像の美しさはぜひ大きなスクリーンで堪能してほしい。
さて、最後にSNSのトピックからもう一つ取り上げておこう。それは日本語吹き替え版を担当したキャスト陣だ。
ヨロコビを小清水亜美が新たに担当したほか、カナシミの大竹しのぶ、ムカムカの小松由佳、ビビリの落合弘治、イカリの浦山迅は続投。そして続編で成長したライリーを俳優の横溝菜帆、新しいキャラクターであるシンパイを多部未華子、ハズカシをマヂカルラブリー・村上、イイナーを花澤香菜、ダリィを坂本真綾が見事に表現した。
特にシンパイの多部については予告映像の段階から評判となっており、実際に見た人から「多部未華子ちゃん凄かった」「多部ちゃんの声がぴったりで没入感やばかったな」「多部ちゃん声優うますぎ」「多部さんって分からないユニークな声が印象的でお上手だった」と称賛の声が。「知らなかったからエンドロールで度肝抜かれたよ」との感想もあったが、日本語版で鑑賞した筆者は前情報で知っていても、最後でそうだったとあらためて驚いたほどで、キャラクターとのシンクロ具合が良かった。
ほか、ライリーの“秘密の推しキャラ”で中村悠一、武内駿輔、花江夏樹がキャスティングされているのも豪華。彼らの登場シーンもお気に入りの一つになるはず。
日本語版キャストも熱演して見せてくれる物語は、ライリーが“自分らしさ”を見つける旅。感情キャラクターたちの暴走においおいと思いつつ共感したり、奮闘を応援したり。見終わった後は、きっと自分の頭の中にいる感情たちを抱き締めたくなり、前を向く力をくれるに違いない。
◆文=ザテレビジョンシネマ部
この記事の関連情報はこちら(WEBサイト ザテレビジョン)