「超時空要塞マクロス」はなぜ“ロボットアニメの金字塔”となり得たのか…クリエイターのこだわりが詰まった“愛の結晶”

2024/08/29 07:10 配信

映画 アニメ コラム

「超時空要塞マクロス 愛おぼえていますか」がディズニープラスで配信された(C)1984 BIGWEST

1982年のテレビシリーズを筆頭に、今もなおロボットアニメファンから熱烈な支持を受けている「超時空要塞マクロス」。劇場版からOVA、小説、漫画に加え、楽曲によるコンサートも開催されるほど、エンターテインメントとしての広がりを見せたロボットアニメの金字塔だ。「マクロス」シリーズといえば、 “メカ”“三角関係” “歌”というキーワードが柱となっており、劇場版やシリーズごとに登場人物が変わりながらも、この三本柱を進化させながらファンを魅了し続けた。そんな「超時空要塞マクロス」が、8月21日にディズニープラスで配信された。そこで、劇場版第1作の映画「超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか」(1984年)を軸に、同シリーズの魅力に迫ってみたい。(以下、ネタバレを含みます)

テレビアニメの内容を再構築して映画化


同映画は、1982年から83年に放送されたテレビアニメの内容を再構築したもので、文化を知らない異星人との星間戦争を軸に、主人公とヒロインによる恋と戦いを描く。宇宙を航行するマクロス艦では、多くの民間人が暮らしていた。ある日、アイドル歌手のリン・ミンメイ(CV:飯島真理)がコンサートを行っていると、異星人からの襲撃を受ける。可変戦闘機バルキリー隊のパイロット・一条輝(CV:長谷有洋)がミンメイを救出し、この出会いをきっかけに2人は互いに惹かれていく。だが、輝は上官の早瀬未沙(CV:土井美加)から独断行動をとがめられ、ミンメイは芸能マスコミに追われることに。

その後、芸能生活に疲れたミンメイを元気づけるため、輝はミンメイを土星の輪の遊覧飛行に連れ出していると、再び異星人の襲撃に遭い、お忍びデートをしている2人を連れ戻しに来ていた未沙らと共に、異星人に捕まってしまう。その異星人はゼントラーディ人(男の巨人族)で、メルトランディ人(女の巨人族)と長きにわたって抗争を続けている勢力であり、男女が共に暮らしている地球人たちに驚く。輝らは捕虜尋問の最中、女の巨人族の攻撃を受けたことで敵艦から逃れるも、輝はミンメイと離れ離れに。

その後、輝は未沙と荒廃した地球にたどり着き、ショックを受ける。放浪するうち、寂しさを分かち合った2人は互いに愛し合うように。2人が地球に降り立った1カ月後、マクロスが地球に帰還。2人はかつての暮らしに戻り、艦内でミンメイと再会する。再会を喜ぶミンメイが輝に思いを伝えるも、輝の心は未沙に向いていた。一方、巨人族は人間と同じ遺伝子構造で、文化を知らずに50万年間戦闘だけを繰り返していたこと、文化を恐れる習性があることが判明。一部のゼントラーディ人は地球人と停戦協定を結ぶも、ゴル・ボドルザー(CV:市川治)率いるゼントラーディの大部隊が総攻撃を仕掛けてくる。地球を守るため、ミンメイは傷心を押してステージに立ち、楽曲「愛・おぼえていますか」を歌唱。巨人たちは文化の象徴であるミンメイの歌に文化因子が呼び起こされ、地球人と共にゴル・ボドルザーを消滅させたことで平和を手に入れる、というストーリー。

「超時空要塞マクロス 愛おぼえていますか」より(C)1984 BIGWEST

ドラマ部分での“間”の使い方が見事


テレビアニメを再構築したものでありながら、ダイジェスト映像をつないだものではなく全編新作フィルムとして製作されており、見れば新進気鋭のクリエイターたちのこだわりが結集していることが分かる。そのこだわりの結晶が、他にはない圧倒的なパワーを生み出し、40年たった今でも色褪せない魅力を放っているのだ。

画角、カット割り、スピード感、メカの細かい演出、光線の動き、あえて横向きで描く手法など、今見ても新鮮さを感じる見せ方から当時の製作陣の気合とチャレンジ精神が伝わってくるし、主人公とヒロインが結ばれないという大人な展開もニクい。2人の間で揺れる主人公の心の移り変わりや女性側の心情など、しっかりとした人間ドラマとして構築。中でも特筆すべきは、ドラマ部分での“間”の使い方だ。

ロボットアニメ的な激しい展開とは一線を画し、“間”だけで心の機微を表現しているところにもこだわりが垣間見える。さらにストーリーのキーポイントとなる歌も、ストーリーにマッチした曲調と歌詞で、映画音楽がそのまま作品の核となっているところが“発明”だったと言える。

“メカ”“三角関係” “歌”という三本柱それぞれに、クリエイターたちのこだわりとチャレンジ精神が注入されていることこそ、長きにわたって多くのファンを魅了し続けているのだろう。配信開始を機に、ロボットアニメの金字塔を支えたクリエイターたちのこだわりに注目してみてほしい。

なお、同作の配信がスタートしたディズニープラスでは2024年内にマクロスシリーズ全18タイトルを配信。シリーズの変遷なども楽しむことができる。

◆文=原田健

「超時空要塞マクロス 愛おぼえていますか」キービジュアル(C)1984 BIGWEST