インターネット礼賛/連載:小林私「私事ですが、」

2024/08/17 20:00 配信

音楽 コラム 連載

インターネット礼賛/連載:小林私「私事ですが、」※本人制作画像

美大在学中から音楽活動をスタートしたシンガーソングライター・小林私が、彼自身の日常やアート・本のことから短編小説など、さまざまな「私事」をつづります。今回は、「地元」について綴ったエッセイです。
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三泊四日の遠征がようやく終わった。
大阪行きすぎだろ。
度々遠征に行きたくないと公言している上で、別に地方のどれかを指差して嫌いと言っているわけではなく、俺は移動そのものを憎んでいるのだ。

乗り物酔いが激しく、電車やバスはもちろん新幹線や飛行機でも酔う。人混みも勿論嫌いで、他人と目や肌が合うのは本当に最悪だ。新宿や渋谷を歩くときでさえ口で呼吸しながら殺意だけを胸に秘めて歩いている。あの街は全員そうしていますといった顔で歩いている。ずっと臭い、24時間臭い、最近はもはやそれが嬉しいまである。そんなわけあるか。

グルメにも興味がない。全ての飯屋は電子パネルで注文出来るチェーン店か食券であるべき、地元の人間らが和気あいあいと営む空気のなかでよそ者が飯を食って美味いはずがない。

観光地も全然好きじゃない。大勢の観光客が訪れるなかでぶつからないようにキョロキョロして写真一枚撮ってみて終わり。一人で行くところではない。

俺が東京生まれでさえなければ。
分かりやすい田舎に生まれて
「俺は地元愛してるんで、出れないっすね笑」と宣言していれば。
地方のお前らが東京をイメージだけで物語にして、好み、嫌う。

東京というゲームなんてない。
お前らが勝手に作成した掲示板に勝手にログインしてイッチの立場を押し付けあってるだけ。

東京ばっかじゃなくて地方も来てください!とはよく言われるが、お前らが好きなバンドマンは全員地元捨てて東京来て、思い出したかのようにツアーで地元に戻ってやっぱここがホームですって、おかしいだろ、俺は東京で生まれ育って東京でライブしてるのに。

地元愛というのは歪んだ自己愛の発散先を間違えることで起きている。
みな己をどこかで許そうと生きて、直接許すことが恥ずかしく困難だからせめて生まれた地は良いものだと錯覚するのだ。
住めば都と言うように、地元なんて本来マジでどこでもいいのだ。
地方ならではの良いものなんてない。
そこには人があるだけ、人が美しいだけ。

そこでしか出会えない人というのはいる。
小学校から大学まで、一人として同じ人間はいないし、俺は出会って良かったと思っている。
じゃあ違う学校だったら、高校や大学に行かずに就職していたら、間違いなくそいつらとは出会えていないだろう。でも違う人達と出会って同じだけ好きになっているだろう。

インターネットも同じだ。
例えば渋谷でライブをするなら渋谷に来れる人間しか見れない、それはどこの地方へ行っても同じことで閉じていることに変わりはない。
インターネットで配信をするなら電波が通ってスマホやPCを持っている人間しか見れない、母数は異なれど閉じていることに変わりはない。
そして、俺のターゲットとはインターネットを介して本気でコミュニケーションが取れると信じ、変なロン毛の男にタメ口を書き込んで、ブルーライトで光合成をする悲しい化け物達、まさしくそういった者達であるのだ。それは俺さえも包括して。

それでは、インターネットで会いましょう。

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