行定勲監督が韓国ドラマに初挑戦 映像美と“人”を描く演出手腕で織り成すミステリー<完璧な家族>

2024/08/19 18:00 配信

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行定監督ならではの映像美に期待


第1話の始まりは、学校から帰宅したソニが自室のベッドに座り、スマホに保存されたクラスメートのツーショットを見て笑顔になるシーンだ。その部屋に至るまでの廊下は暗めだったのだが、ソニの部屋は画面左側の窓から日差しが差し込み、どことなく温もりの感じられる雰囲気だった。

行定監督の映画は、映像美が高く評価されている。行定監督が助監督時代に師事した岩井監督は、“岩井美学”と言われるほどの独自性のある映像美が人気だ。その岩井監督の多くの作品で撮影監督を務めた篠田昇氏は、行定監督の長編デビュー作と「世界の中心で、愛をさけぶ」を担当し、篠田氏が亡くなったあとは愛弟子の福本淳氏が撮影監督をしたりもしている。そんな経緯もあってか、行定監督の映像は光の差し込みや、暗いところでの青みがかった色合いが美しい。そしてそれはまた多くの場合、その場面でのキャラクターの心象を切り取るようでもある。

そんなことからも先のシーンはソニの心を写し取っているのかと感じられた。

ところが、すぐに衝撃展開となった。借りたままだったテキストを返そうと出掛けた先で殺人事件に巻き込まれてしまった。ナイフで刺されたのはギョンホ。同じ空間にいたのはスヨン。ソニのスマホの中の写真に写っていた2人だ。ぼうぜんとしたまま自宅に戻り、母の前で泣き崩れたソニは、なぜか自分が殺したと告白する。このとき映し出されたチェ家の邸宅がどことなく冷たさがあるように目に映ったのは、単にミステリー作品であると念頭にあったからのみだろうか…。

ソニの過去が明らかに、不穏で予測不能な展開へ


物語はそれから1カ月前にさかのぼって描かれた。転校してきたスヨンは、ソニはすぐに思い出せなかったが、幼いときに養護施設で一緒だった人物だった。実はソニは養女だったのだ。

ある日、アルバイト先の事情で給料が入らなくなったスヨンは、教室でソニにお金を貸してほしいと言う。最初はイヤホンをしていて気付かず、突然のことに戸惑うソニに、スヨンは衝動的に大きな声を出して金の無心をした。すると翌日、ギョンホがお金を渡し、「ソニをいじめるな」と忠告。そんなギョンホをスヨンは殴り、ソニに「あんた私をバカにしているの?」と言い放った。

裕福で優しい養父母の下で何不自由なく育ったソニと、ずっと苦労しているスヨン。ただ、スヨンの激し過ぎる態度は、対照的な暮らしとなってしまったことだけが原因ではなかった。ソニより少し前にスヨンも養女になることが決まっていたが、ケガをしてしまったせいで破談に。そのケガはソニが不注意で起こした火事によるものだったことが明かされた。

グッと色味を落としたトーンで描かれた後半。ピアノ旋律などのBGMと相まって不穏さを増し、ゾクゾクしながら目が離せなくなった。

行定監督は、映像美と共に、ラブストーリーなどでも恋する感情を捉えながら、その人となりを深く映し出すことに長けている。ラブストーリーであり、究極の人間ドラマでもあるというような。その面では本作もミステリーでありつつ、“完璧”だという家族とその周囲の人物の人間ドラマを掘り下げて見せてくれることだろう。それが物語に厚みをもたせるはず。新たな挑戦の中での展開が楽しみだ。

ドラマ「完璧な家族」(全12話)は、Leminoで毎週水・木曜夜10:50に1話ずつ日本独占配信中。

◆文=ザテレビジョンドラマ部