コミックの映像化や、ドラマのコミカライズなどが多い今、エンタメ好きとしてチェックしておきたいホットなマンガ情報をお届けする「ザテレビジョン マンガ部」。今回紹介するのは、のもとしゅうへいさんの漫画「仕事に追われた人間がおばけになる話」。
作者ののもとしゅうへいさんが7月13日にX(旧Twitter)に本作を投稿したところ、8,200件を超える「いいね」が寄せられた。本記事ではのもとさんに、作品のこだわりなどについてインタビューをおこなった。
主人公の男性は大学卒業後、”すり切れるように働いた”という。ひとつの仕事をこなしても、次から次へと新しい仕事が”振って”くる。どれだけ仕事をこなしても上司から責められることが続いたが、辛い心に目を背けて働き続けた。
するとある日突然、男性の体がまったく動かなくなった。立ち上がることはおろか、文字を読むことすら困難になっている。さらに涙も止まらない。自身の心身の変化の理由が分からないまま、男性は”心が体を去っていく感覚”を感じた。
限界を感じた男性は会社に休職届けを出したが、それでも彼の心はすぐには戻ってこない。原因は、辛い仕事を無理して続けているうちに”あらゆる感情を無意識のうちに遠ざけてしまった”ことだった。男性は休みの間、色々なことに挑戦する。読者や映画鑑賞・動物と触れ合うなどを試したしたが、全て諦めてしまった。
そんな中、男性はただ一つのことに気が付く。それは”お腹だけがへる”ということ。食べ物は心が辛いときも、彼の心を刺激してくれたのだ。
のもとさんが投稿したX(旧Twitter)には「今年2月、3月あたりのわたしだ…」「この世界にリアル感がないけれど、腹は減るというリアルの感覚」「私もずっとご飯だけは美味しかった」「心が体を去っていく感覚めっちゃわかる」などの共感の声が多数寄せられている。
また、のもとさんの漫画に対しても「すごい表現力」「絵と色が良すぎる」「絵と言葉が好き」「絵の線も色も質感もやさしくてすごく好き」など、のもとさんの作品に癒された読者のコメントが寄せられている。
――「仕事に追われた人間がおばけになる話」を創作したきっかけや理由があればお教えください。
社会に出て働いていると、自分の元に不慣れな仕事が回ってきたり、責任のある立場につくことになったり、弱音を吐かずに無理をしなくてはならない状況に追い込まれたりすることがあります。過酷な環境に頑張って適応しようとして、心をすり減らして動けなくなってしまう人が、周りを見渡すとたくさんいるような気がします。そんな現象を作品のなかで取り上げてみようと思ったのが最初のきっかけです。
仕事に追われて体はひどく疲れているのに、そのストレスに気がつかないフリをしたまま、最終的には自分の感情の正体すらわからなくなってしまう。その様子は人間というより、どこか無気力で無感情なおばけのようにみえるのではないか──。そんなことを考えていました。
この作品は、自らの実体験を再現したものではありませんが、キャラクターの振る舞いや性格には自身の一部が投影されているような気がします。もし仮に自分がこの主人公のような環境に置かれたら、やっぱりおばけになってしまうのではないか、とも思います。パラレルな世界線のもう一人の自分へ向けて、描いている作品なのかもしれません。
――本作を描くうえでこだわった点や、「ここを見てほしい」というポイントがあればお教えください。
言葉と絵がコマの中で合わさった時に立ち上がる空気感のようなものは、漫画を描く時にいつも頭の中で想像している気がします。また、読み取りやすいテキストのリズムや、ページごとの配色の第一印象なども制作時には意識しています。
――本作の中で特に気に入っているシーンやセリフがあれば、理由と共にお教えください。
うつむいた主人公の背中から、おばけが抜け出すシーンでしょうか。感情が失われていく主人公の状態の変化を、自分なりに解釈しようとした結果、このようなイメージが生まれました。
――温かみのある画風と色使いに癒されます。絵を描くときにこだわっていることがあればお教えください。
キャラクターの特性上、おばけの表情にあまり起伏がないので、キャラクターの顔を描き込むかわりに、各コマの構図や色遣いなど、周囲の情景の表現で感情や雰囲気を伝えることができたら良いなと思っています。また、寂しさの漂う物語の展開に作品の印象が引っ張られすぎてしまわないように、やわらかみのある絵のタッチでバランスを取っているようなところもあるかもしれません。
――今後の展望や目標をお教えください。
おばけになった主人公がこの先どんな生活をしていくのか、という続きのお話を描いてみたいです。漫画を描きはじめてまだ間もないので、この先新たな表現やモチーフに挑戦してみたい、という思いもあります。
――作品を楽しみにしている読者へメッセージをお願いします。
いつも作品をみてくださり、ありがとうございます。
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