苦労人だが誠実に生きてきたドンスが犯罪に加担してしまうところから始まり、「誰しも表と裏の顔があるように、誰にでも“悪人”になる可能性がある」という人間の本質に迫ったこの作品。圧巻はやはり、“ハギュン神”と名高いハギュンの演技力だ。
罪の意識と良心の呵責に苛(さいな)まれながらも罪を重ねていくドンスを、狂おしい姿と鬼気迫る演技で魅せるハギュン。人の命など何とも思わない真の悪人ドヨンを前に「嫌な予感がする」「手を組むことはできない」と何度も引き返そうとするものの、ある時は妻を守るため、またある時は認知症の母をおとりに取られ、またある時は目の前に突きつけられた拳銃から逃れるため、やむを得ず悪に手を染めていく。
平凡なドンスはやがて正気を失い、エリート犯罪者に変貌していく。そして気がつけば、ドヨンに出会う前とは顔つきもガラリと変わってく。“悪人”とは果たして何なのか…その強烈な演技は、会見でヨングァンも「さすが“ハギュン神”だなぁ!と」と感激したほど。演技派のハギュンが、一人の善良な人間が完全な“悪人”の誕生を迎えるまでを没入度高く熱演している。
対する“根っからの悪人”ドヨンも強烈だ。ドンスとの初対面シーンでの、すべてを見透かすような冷たい視線と余裕たっぷりの振る舞いに、妙に惹きつけられる。
演じるヨングァンもドラマ「サムバディ」で、ある出来事をきっかけに殺人に快感を覚えて暴走していくサイコパスを演じたが、本作では主人公ドンスを悪の世界へと引きずり込む強烈な“ヴィラン(悪役)”。甘いマスクとは裏腹に、残虐でコントロール不能な狂気を持ったキャラクターを魅力的に演じている。
ドヨンは、生まれつき抜群の運動神経の持ち主で“野球神童”とまで呼ばれた元野球選手という設定。つねに野球ボールを持ち歩いており凶器としても使っている、というキャラクターも、長身イケメンのヨングァンの持ち味を最大限に活かしている。
初めはオドオドしていたドンスが、悪事に手を染めてしまったことで徐々に正気を失い、次第に“悪人”の顔つきに変貌していくさまがとにかく圧巻。韓国トップ俳優のハギュンと、“美しき悪”を唯一無二の存在感で演じるヨングァンの演技合戦も凄まじい。緊張感あふれる展開と息をのむ心理戦で高純度の没入感が味わえる、韓国ノワール・サスペンスだ。
◆文=酒寄美智子
この記事の関連情報はこちら(WEBサイト ザテレビジョン)