俳優の吉沢亮が、9月5日に都内で開催された主演映画「ぼくが生きてる、ふたつの世界」の完成披露上映会に登場。ろう者俳優として活躍する忍足亜希子、メガホンをとった呉美保監督と共に出演を決めた理由や、作品への思いなどを語った。
映画「そこのみにて光輝く」(2014年)などで知られる呉監督にとって9年ぶりの長編作品となる同作は、コーダ(Children of Deaf Adults/きこえない、またはきこえにくい親を持つ聴者の子どもという意味)という生い立ちを踏まえて、社会的マイノリティに焦点を当てた執筆活動をする作家・エッセイストの五十嵐大氏による自伝的エッセイ「ろうの両親から生まれたぼくが聴こえる世界と聴こえない世界を行き来して考えた30のこと」を映画化した物語。吉沢は耳のきこえない両親の元で育った息子・五十嵐大を演じる。
先日、10月に開催される「第68回ロンドン映画祭」コンペティション部門、「第43回バンクーバー国際映画祭」パノラマ部門への正式出品も決定したが、その感想を聞かれた吉沢は「本当に光栄な限り。国とか文化みたいなものを問わず、見ていただいた方に伝わる普遍的なテーマなんだなとあらためて思いましたし、これからもっともっと多くの方にこの作品が広がってくれるとうれしいなと思いました」と率直な心境を語った。
また、今作への出演を決めた理由について吉沢は「呉さんの作品は今まで見せていただいていて、すごく大好きな世界観で、いつかはご一緒できたらうれしいなと思っていた監督だったので、呉さんの作品のオファーだから、というのもそうですし、台本になる前のプロット(筋書き)みたいなものを読んだときに、コーダという環境ではありますが、描かれている普遍的なテーマ、家族の関係性、親子の愛情の変化の仕方みたいなものも、ものすごく共感できる部分が多かったです。純粋に素晴らしいお話だなと思ったので、ぜひともやらせていただきたいなということになりました」と、オファーを受けたときのことを振り返った。
一方、そんな吉沢や母親役の忍足をキャスティングした決め手を問われると、呉監督は「9年ぶりに長編映画を撮らせていただいたんですけど、毎日育児と向き合いつつ、いつか映画をまた撮れたらなとふんわり思いつつ、いつか映画を撮ることができるならどういう人とやりたいんだろうと。自分の時間の中で映画やドラマを見ていて、吉沢さんはすごくすてきだなと思っていたんです。彼は美しい人なんですけど、その中にある“美しくない何か”を私は自分のこの目で見たくて。今回この企画を頂いたときに、彼とこの企画は相性がいいんじゃないかと思ってお願いさせていただきました」と、吉沢を主演に据えた理由を明かす。
忍足に対しては「忍足さんの主演作も見ていて、最初一度お会いさせていただいたんです。そして忍足さんに映画の1シーンをやってみてもらいたいなと思って、あるシーンをやっていただきました。それを見たときに、私は忍足さんの娘ではないんですけれども、お母さんにこんなことを言わせてしまった申し訳なさでいっぱいになって。この方にやっていただきたいと心から思いました」と、実際に目の前で演技をしてもらって決定したというエピソードを披露した。
舞台あいさつ中、手話で思いを伝える忍足をじっと見つめてしっかり内容を理解しようとする姿が印象的だった吉沢。あらためて母親役の忍足と共演した感想を、吉沢は「本当に温かい方です。忍足さんと今井(彰人)さんの手話だけは現場でもすんなり入ってくるんですよ。分かりやすくやってくださるのはもちろんだとは思うんですけど、すごく何を言っているかが分かる。そこに僕は勝手に愛情を感じていて、本当に温かいご両親だと思いましたし、一緒にお芝居をさせていただいてもチャーミングで、すてきなお母さんだなと思いながらやらせていただいていました」としみじみ語ると、忍足も「本当に吉沢さんは素晴らしい息子で、手話も自然に少しずつ習得されて、息子としての手話表現を見て感動していました」と賛辞を惜しまない。それぞれ敬意を伝え合うと、互いに目を見て照れくさそうにほほ笑むという、温かい空間が広がった。
最後に、吉沢はこの作品に参加したことであらためて“言葉を伝えることの重要性”を痛感したことも明かし、「今回、手話と出会ってやっぱり気持ちは伝えなきゃ伝わらないし、手話という『今怒っている』『悲しい思いをしている』というものすべてを伝えてくれる言語は本当に愛にあふれていて、素晴らしい世界だなと思ったんです。この作品を見て、伝えるって大事だなと感じていただけることがあれば僕は幸せです」と観客にメッセージを伝え、締めくくった。
映画「ぼくが生きてる、ふたつの世界」は、9月20日(金)より東京・新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座ほか全国順次公開。
◆取材・文・撮影=月島勝利(STABLENT LLC)