――長与さんは1985年8月28日に大阪城ホールで行われた敗者髪切りデスマッチで敗れて、丸刈りになりました。唐田さんが受けたオーディションは、自毛を剃ることが条件だったそうですね。
唐田:そうです。だから、覚悟をしていましたけど、そのシーンを撮る日になると怖さが出てきてしまって、逃げちゃいそうな自分がいました。
長与:そりゃ、逃げたくもなるよね。みんなピリピリしているし、バリカンを入れちゃたらもう止めることはできない一発撮りだから。現場で「なんかあったら止めて」「修正するから」とかのやり取りがあったのを彼女も聞いているから、怖さは増したと思う。
唐田:あの日は事務所の社長や鈴木おさむさん、ダンプ松本さんや長与さんもいてくださって、「パワーをください」と、皆さんに握手してもらってからリングに上がったんです。改めて自分は1人じゃない、1人ではここまで来られなかったって感じて、覚悟と思いをリングにぶつけました。
長与:女性が女性に対して「格好良い」とか「ホレる」という感情が出るほど、あのシーンには潔さがあった。あれで、自分の物語が完結したね。
――39年前、長与さんはどんな思いでリングに立っていたんですか?
長与:怖かった。逃げたかった。こっから扉1枚を開けたら外に出られるから、逃げたらどれだけ楽かと思った反面、そう思う自分が嫌だった。そりゃ、そうだよね。女の子が髪の毛を短く切ることはあっても、坊主になることはないから。でも、(唐田は)似合っていて良かったよ。
唐田:あはははは(笑)。いえいえ。
長与:刈られた後に彼女の頭を触ったんだけど、泣けるぐらい感謝したね。よくここまで挑んでくれたって。
唐田:触ってくださっていたとき、ダンプさんと一緒に泣いていましたよね。それで私も泣いちゃいました。
長与:そうだね。(プロレス指導から)2年ほどは近しい存在になっていたから。
唐田:作品を通じて、強くなれたような気はしています。せりふで、(長与の出身の九州なまりで)「うちらは強くなるしかなか」とか「強くなれたとやろか」とか、強さという言葉が何度か出てきて、自分自身に問いかけていました。
レスラーってリングの上で闘って、すごく格好良いし、強い女性に見えるんですけど、日々いろんなことが起こる中で崩れちゃいそうになることもある。試合のシーンでは、「受け身をちゃんと取れるかな?」とか不安があったんですけど、リングに立ってしまえば強い者であるしかなかった。長与さんの前で言うのは恥ずかしいですけど、「私は長与千種だ!」という思いで試合をすればするほど、一つになれた気がして、成長できたのかなって。
長与:できたと思うよ。挑んでくれた女優さんたち全員に圧倒されたし、女の底力は捨てたものじゃないって再確認させられた。女優さんたちがリングで痛みや苦しみ、うれしさや喜びを表現しているところを見たとき、女の力ってすげぇなと思ったし、この作品を見た方はその力に触れることができると思う。
だから、(唐田は)素晴らしい女優としてもっとうぬぼれてほしい。大物と言われる女優さんはいっぱいいるけど、プロレスに挑戦していく女性はなかなかいないんだからさ。
唐田:(目を潤ませて)あっ、また泣いちゃいそうです。
◆取材・文=伊藤雅奈子