コミックの映像化や、ドラマのコミカライズなどが多い今、エンタメ好きとしてチェックしておきたいホットなマンガ情報をお届けする「ザテレビジョンマンガ部」。今回は、『人間万事塞翁が馬』第一話をピックアップ。作者である漫画家のおきぬさんが、2024年8月13日に本作をX(旧Twitter)に投稿したところ、7000件を超える「いいね」や反響が多数寄せられた。本記事ではおきぬさんにインタビューを行い、創作の裏側やこだわりについて語ってもらった。
「今日からお世話になります」「よろしくお願いします!」とドラックストアのアルバイトに新しく入ってきたのは、金髪にメッシュが入ったヘアスタイルの木村梨央。「薬とか扱ってるからちょっと大変だけど、少しずつ覚えていきましょう」と社員の芭蕉口実が声をかける。“今日から”の言葉から察するに、初日の研修を受けているようだ。
ただ2人が働くドラッグストアには服装の決まりがあるため、芭蕉口は木村の髪色について恐る恐る触れることに。しかし木村は芭蕉口が驚くある写真を見せて脅してくるではないか。仕方なく髪色については上にかけあって許可をもらったのだが、それからもなぜか木村はストレートに好意をぶつけてきて…。
この漫画を最後まで読んだ人たちからは、「木村さん一途なのかそれとも単なるクズなのか…」「怯える芭蕉口さんに笑ってしまった」「なんやかんや良いコンビ」「木村さん肝座りすぎ」「続きが気になる…」「など反響の声が寄せられている。
――『人間万事塞翁が馬』第一話を創作したきっかけや理由があればお教えください。
短いスパンで更新できる漫画として描いていた作品群の一つです。正式なタイトルは「人間万事塞翁が馬」(ジンカンバンジサイオウガウマ)と言いまして、去年の2023年にX(Twitter)とpixivで更新していました。
本作の前はBL漫画「後は野となれ山となれ」を更新していました。そちらはコンビニを舞台にしている作品なので、次はスーパーにしようかなと思っていたところ、背景に使う3D素材が無かったので、3D素材のあるドラッグストアが舞台になりました。
私はBL漫画と百合漫画を交互に描いていくスタイルで活動しているのですが、前作がBLだったので次は百合を描きたいなと当時は思いまして。同時に陽キャと陰キャが描きたかったのもあり、こうして今作に至ります。
――本作を描いたうえで「こだわった点」あるいは「ここに注目してほしい!」というポイントがあればお教えください。
まずは、よく読者の方に褒めていただけるテンポ感とギャグ要素です。なるべく会話の無駄は削って、語感良く、ボケとツッコミのバランスが良くなるように意識しています。更新スパンを優先している都合で一話あたり4ページで構成しているので、会話の取捨選択を気を付けるようにしています。
次は、社員の芭蕉口(バショウグチ)のキャラクターです。色んな人に共感してもらえるような、普遍的なキャラクターを目指しました。新しいことに挑戦するのに尻込みしたり、明確にやりたいことが無かったり、頑張り方が分からなかったり。そういう人が大多数だと思っていて、私も例に漏れません。そういう自分に嫌気が差してても、どうしたら良いのか分からない…そういう「普通」な人間を描きたいと思って作り上げたキャラクターです。
最後に、新人バイトの木村のキャラクターです。彼女は芭蕉口のウジウジしたところを全部吹っ飛ばしてくれるキャラクターです。頭のおかしい攻めを描きがちなのですが、今回もそうなってしまいました(笑)
ニコニコしながら人の心の柔らかい部分を土足で踏み荒らす……そういうサイコパス気味なキャラクターを描くのが好きなんでしょうかね。ちなみに言うまでもないと思うのですが、盗撮は絶対に真似しないでくださいね。こだわった点はこんな感じです。
――個人的に、「普通じゃねぇ!!」という芭蕉口さんの表情がお気に入りです。特に気に入っているシーンやセリフがあれば、理由と共にお教えください。
そこがお気に入りなんですね!?ぜひ理由もお伺いしたいところです。私のお気に入りは第九話から第十話にかけて、2人が衝突するシーンです。いい加減ドラックストアでの業務に嫌気が差した芭蕉口が、木村に愚痴を零してしまうくだりです。
第九話のラスト、木村が行動を起こせない芭蕉口に対して「かわいいな」と言う時の表情が、我ながらサディスティックに描けたなと思っております。そこから続いて第十話で、木村が「みじめで情けないあなたがかわいい。矮小で不勉強で、世間を知った気になったあなたが。」と言うセリフや、芭蕉口の情けない部分に対して「サイコーに社会人って感じ!」と言い放つセリフが大好きです。
気に入っている理由は、過去の自分の悩みへのアンサーになっている気がするからです。私は現在、絵を描く仕事で生活しておりますが、そこに至るまでに様々な葛藤がありました。絵を描いて生きられたらなと思ってはいたのですが、勇気が無かったので全然違うことばかりやってきました。そんな人生の中で、「やはり絵を描いて生きていきたい」と思い直し、上手く行かなかったら死ぬつもりで舵を取り直し、ここまで来ました。
「努力は人を裏切らない」という言葉がありますが、100%報われるわけではないのは事実だと思います。ただ、何かが欲しいなら行動をしないと、成功どころか失敗もない……どんな結果も得られない。そして、どんな結果が出たとしても自分で責任を持つことが自分の人生を生きることだと、自分なりに色々な経験から思うようになりました。
何にも成れていなかった過去の自分を救いたかった、そして頑張った自分を肯定したかったんだと思います。ついでに誰かが救われたら嬉しいです。
――普段作品のストーリーはどのようなところから着想を得ているのでしょうか。
湧いて…出ます…(笑)。ある日突然「これだ!」となることが多いです。ですが、おそらく今までの経験や、触れてきた作品がいい塩梅で醸成されているのではないかと思います。哲学的なことを考えるのが好きなので、そういう所でしょうか…。
後は、普段から大好きなアーティストに「ALI PROJECT」さんを挙げているのですが、彼らの作品からの影響は大きいと思います。まだまだ不勉強な若輩者なので、精進致します。
――作画の際にこだわっていることや、特に意識していることはありますか。
まず絵があんまり上手じゃないので、なるべく上手く描けますようにと願いながら描いています。それから、出来るだけ仕草をつけるようにしています。人物の考えや人間性が表れるように、ですね。
後はとにかく「お前が好きだ!」と思って描くようにしています!(笑)例えば本作で言うと、芭蕉口は目の下の隈と下睫毛がチャームポイントなので、そこに魂を込めています。木村の場合は、細目で毛並みの見える眉毛と、二重瞼と、ピアスですね。キャラクターのチャームポイントやキーアイテムは大事に描くようにしています。
背景は3Dを使うことが多いですが、「怪獣8号」の背景に影響されています。トーン1色だけで前後感が分かる仕上げや、立体を表現する線等ですね。シンプルなのに前後感や立体感があって、画面がスッキリしているので見やすいのが本当にすごいと思います。色々描くと画面がごちゃごちゃしがちだと思うのですが、「怪獣8号」はなぜかそうならないんですよね…。
――今後の展望や目標をお教えください。
自分にとって「いい作品」が描けるようになりたいです。「いい作品」とは何か、これはまだ明確に答えが出せていないので、まずはもっと色々な作品に触れて探っていきたいです。最近分かってきたのは、青年漫画のような現実感のあって読み応えのある作品が好きだということです。映画だとヒューマンドラマやミステリが好きなので、そのあたりを足掛かりに考えていきたいです。
それから、絵が上手くなりたいです。これは絵描きなら誰でも抱える永遠のテーマだと思いますので、言うまでもないのですが…。
最後に、奨学金を完済したいですね!(笑)残額600万なので毎日必死です。
――作品を楽しみにしている読者へメッセージをお願いします!
いつも応援して下さる方、本当にありがとうございます。皆様のお陰で私はこうして、WEBザテレビジョンさんにインタビューしていただけるようにまでなっております。これからも沢山作品を描いていきますので、お口に合うものを摂取して頂けると幸いです。
それから、おきぬを初めて知っていただいた皆様へ。ここまで読んでいただいてありがとうございます。至らぬ者の拙い文章ですが、少しでも興味を持っていただけたら幸いです。現在Xやpixivにて、BL漫画「後は野となれ山となれ」を更新中です。コンビニ店員×常連客のギャグテイストなお話です。読んでいただけたら嬉しいです。
最後にWEBザテレビジョンの皆様、貴重な場を設けて下さりありがとうございました!楽しかったです!
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