70年代にヒットチャートを席巻した作詞家・阿久悠の軌跡を水野良樹がたどり、歌を作るヒントを探る「ETV特集『いきものがかり水野良樹の阿久悠をめぐる対話』」(夜11:00-0:00)が、9月23日(土)にNHK Eテレで放送される。今回、阿久の詞に強く引かれていたという水野にインタビューを行い、番組出演のいきさつや、改めて阿久について思うことなどを聞いた。
――まず、どのように出演のオファーがあったんでしょうか?
以前「SWITCHインタビュー達人達」(2016年10月1日放送回)に西川美和さんとの対談で出演させていただいたんです。その時にお世話になったスタッフさんに「水野くん、阿久悠さんをどんなふうに思っていますか?」ということを聞かれたんです。
その質問に対して、僕が阿久さんの作品などについてどう思っているかなどをかなり長文のメールで送って。まさか番組につながるとは思っていなかったのですが、そこを面白がっていただいたのか、今回のお話をいただきました。
――阿久悠さんの詩の魅力はどんなところなんでしょうか?
これは皆さんにも共通する認識だと思いますが、映像のような詩が魅力ではないでしょうか。一編の詞が映画のように感じるくらい、視点がさまざまに設定されていて、登場人物を引いて見たり、突然アップになったりする場面が一つの歌の中に入っているんです。
目まぐるしく変わる情景から、聞き手がいろんな世界に行けたり、さまざまな感情を味わえるっていうのは阿久さんの詩の醍醐味(だいごみ)ですよね。
僕個人の意見としては、シンガーソングライター全盛の90年代後半に青春時代を過ごしたので、阿久さんの書くような自分の存在からちょっと離れた物語を描く詩が、慣れ親しんでいたようなものとは違う輝きを放っているなと感じています。
――取材の中で印象的だった言葉などはありましたか?
本当にどの方も印象的だったんですが…阿久さんのご子息の深田太郎さんの言葉ですね。明治大学で、保管されている阿久さん直筆の日記を拝見したんです。その中には、2007年頃の闘病のことなどはっきりと書かれていたので、すごく胸に迫るものがあって。
僕らはそこに注目して、もちろん番組でその部分も取り上げたんですが、その撮影シーンが終わった後に、深田太郎さんが僕を呼び止めて「もちろん闘病シーンも大事なんだけど、父はそれだけじゃない。作詞について常に戦ってきた人だから」っていうことを、一言おっしゃったんですね。それがすごく印象的で。
例えば外では阿久悠でしたけど、家では違いましたよ、なんていう話をされてもおかしくはないのに、それだけではなくて、父はいろんなことを考えて、戦いをして阿久悠という存在を守りきったんですということを伝えてくださったんだなということをすごく感じて。
実の息子さんにも弱みを見せず、“阿久悠”でい続けたというところが、やはり偉大な方だと思いましたし、そういうことを理解しつつ今も阿久さんの作品を残すことに尽力されている深田さんの姿はすごく胸にくるものがありましたね。
後は「ピンク・レディー」を阿久さんと共に育てた音楽ディレクターの、飯田久彦さんですね。いろんなお話をお聞きした後に、雑談のように僕が「阿久さんのこと好きでしたか?」と尋ねたら、飯田さんは「たくさん歌を作ってきて、たくさん怒られていろんなことがあったけど、大好きでしたね」と涙を浮かべながら素直に言ってくださったんです。
阿久さんって僕らの世代からするとちょっと、近寄りがたいというか。実際歌を作る時には怖い場面もあっただろうと思うんですけど、今回お話を聞いた、阿久さんの近くにいらっしゃった方々から人間味みたいなものを聞いて、やっぱり愛される方だったんだろうなということを感じましたね。
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