180cm超の長身に、南国の陽差しを思わせるキラキラとした笑顔を見せるのは、台湾エンタメのフェス「TAIWAN MOVIE WEEK」に来日した俳優・ツァオ・ヨウニン(曹佑寧)さん(30)だ。
彼が鮮烈なデビューを飾ったのは2014年。作品は、戦前の日本統治時代に台湾から甲子園を目指した球児たちの実話を元にした映画『KANO 1931海の向こうの甲子園』だ。「ピッチャーのアキラ役」というとピンと来る方も多いだろう。当時の彼は演技が高く評価される一方で、野球界からも将来を嘱望される選手という逸材だった。
ツァオさんは俳優の道を選び、デビュー10周年を迎えた今、2024年だけでも主演映画3本とドラマ2本が公開&公開予定と大変な活躍を見せている。今回のインタビューでは彼の10年の軌跡と俳優人生をデビューのきっかけから語ってもらった。
ツァオ・ヨウニンさん(以下、ツァオ)「僕の俳優人生は『KANO』がきっかけなんですが、当時の僕は演技なんてしたことがない大学野球の選手でした。(小学生の頃から)十数年間ずっと野球漬けの生活をしていて。そんなときに『KANO』のオーディションの募集があって、ふと人生の中で野球以外の全く新しいことにチャレンジしてみてもいいのではないかと思ったんです。それで思い切って受けてみました」
『KANO』では、メインキャストである台湾の高校球児・呉明捷(ご・めいしょう)役に抜擢され、台湾で最も重要な映画祭の一つ「台北電影節」で最優秀助演男優賞を受賞。そのブレイクぶりは呉明捷の愛称「アキラ」がそのままツァオさんの愛称になるほどだった。俳優になるのか野球選手になるのか、はたまた二足の草鞋かと、その去就が注目されていたが、彼が選んだのは俳優の道だった。『KANO』の公開から2年後のことである。
ツァオ「『KANO』の後は2年間ほど野球の世界に戻りました。でもやっぱり今後の人生で俳優の世界でチャレンジしていきたいと思ったんです。野球の方は大学卒業後、代表チームの選手として国際試合にも出場できたことが、僕にとって野球選手として一つのゴールだったように思います。全ての試合を終えて思い残すことなく新たな世界に飛び込みました。
僕が幸運だったのは、俳優のキャリアのスタートが『KANO』のような大きな作品だったことですね。撮影中の歩き方から、顔を突っ伏すシーンでも顔を押し付けすぎないように気を付ける、メイクが取れてしまうから……というような細かなことまで、演技の基礎の基礎を学びました。『KANO』で得た経験が、今後どんな役者になりたいか、僕の俳優人生の礎になっていると思います」
俳優の世界に入って10年、「今も日々学んでいる」というツァオさんの最新作の一つ『夏日的檸檬草』(2024)がTAIWAN MOVIE WEEKで公開。高校生の甘酸っぱく切ない恋を描いた青春ラブストーリーで、ツァオさんは文武両道のイケメン転校生・程奕(チェン・イー)役で主演している。ツァオさんの実年齢を知った日本の視聴者からは「本物の高校生かと思った」「台湾の俳優さんってすごい」などと驚きの声が上がった。役作りにはどう取り組んだのだろうか。
ツァオ「僕はずっと野球に打ち込んでいたから、学生時代に青春ラブストーリーみたいな経験が全くないんです。しかも僕が高校生だったのはかなり前のことですし。なので、まずは青春映画をたくさん見て勉強しました。また今回は程奕が大人びた性格だったのが幸いでしたね(笑)彼は家庭の事情で早くに大人にならざるを得なかった。18歳ですが、もう少し上の20代ぐらいの男性の気持ちになって演じました。あとは18歳に見えるようにスキンケアをめちゃくちゃ頑張りました(笑)」
ツァオさんは、その端正なビジュアルもあって学園の王子様や天真爛漫な少年、カーアクション映画『スリングショット』(2021)のような天才役が似合うが、かつてのインタビューでダークな役も演じてみたいと話していた。その言葉通り、近年では役者として演技の幅をさらに広げている。ドラマ「恋するマフィア娘」(2019)ではヒロインの幼馴染で婚約者という香港マフィアの息子・エディ役を務め、“青春王子” とは真逆の魅力を見せた。
ツァオ「たぶん皆さんが僕に持っている印象って “活発、明るい、元気な男子” とかだと思うんですけど……実は僕自身は控えめというかもうちょっと冷静な部分もあって、『恋するマフィア娘』ではその部分を生かせたかなと思います。エディはマフィアの息子だけど、極悪人ではなく優しさも持っている人物です。極端でない、バランスの取れた役柄だったなと思いますね。
でも、素の自分に一番近い役はというと、やっぱり『KANO』のアキラです。野球選手としてのアキラの悩みや葛藤は、僕自身が全て経験したことでした。選手生活というものも全部知ってる。もう演じる必要がないほどで、自然体でいられました(笑)それにアキラもちょっと口数が少なくて控えめな性格です。そこも僕に似ているかな。
逆に僕と正反対の役は『人際関係事務所(原題)』(2018)の張亮です。主人公たちが人々の人間関係の悩みを解決していく物語なのですが、張亮は人を見ると『何か悩み事は?』『僕に手伝えることはない?』と積極的にいくタイプ。犬みたいにテンションが高くて、素の自分と違いすぎて戸惑いました(笑)演じるときは張亮タイプの友人ならどうするかを想像して、自分の心をハイな状態に持って行って撮影に臨みましたね。撮影中は張亮の影響を受けて僕自身も積極的になっていたかも(笑)」
この10年、様々な作品に出演してきたツァオさんが思う台湾作品の魅力は……
ツァオ「台湾作品の魅力はテンポの良さだと思います。僕は日本の作品は展開が比較的ゆっくりで、ストーリーに込められたメッセージを理解するために何度も見るものだと感じているのですが、台湾の作品、特にドラマは展開がとてもわかりやすく作られていると思います。
昔の台湾ドラマは20話、30話が当たり前でしたが、今は6〜10話ぐらいが主流。元々あったテンポの良い作風と相まってサクッと見るのにちょうどいいですね。
一方、台湾映画はドラマと比較するとテンポが緩やかです。それを2時間見続けるというのは、忙しくて一度にたくさんの情報を欲する現代人には合わないようにも見えますが、だからこそ映画館でリラックスして物語を堪能することは、僕たち現代人にとってすごく大切な時間であると感じています」
人々の生活のリズムがどんなに速くなっても、映画は作り続けられるべきだと考えているというツァオさん。そう考える彼は、今後、どんなことにチャレンジしていきたいのだろうか。
ツァオ「アクション映画に出演してみたいって思ってるんです」
さらに冗談まじりに「どうして誰もオファーしてくれないのかな、待っていますよ(笑)」とも。
元スポーツ選手で運動が得意なツァオさんは、最新作『刺心切骨(原題)』(2024)で心に闇を抱えたフェンシング選手を演じ、その高い身体能力には監督も舌を巻いたという。台湾のスポーツバラエティでも規格外の活躍。アクション映画への出演もそう遠いことではないかもしれない。
アクションへの思いは強いようで「もしも日本の作品に出演するなら」という質問に対してもアクション作品を挙げていたツァオさん。ほかにもミステリーや職人をテーマにした作品も挙がったが、本心は「機会をいただけるなら、どんなことにもチャレンジしたいです」なのだという。
インタビューでは何度も「チャレンジ」という言葉を口にする姿が印象的だった。チャレンジこそがツァオさんの俳優人生のキーワードであるようだ。最後に今後の抱負と日本のファンへのメッセージを聞いてみた。
ツァオ「僕自身は一つの目標を決めてひた走るタイプではないのですが、俳優であるからには今後もいい作品作りに参加し、作品を見てもらうことで皆さんに喜んでもらいたい、それが一番の願いですね。
日本の皆さんにも僕の出演作を見ていただきたいですし、『夏日的檸檬草』も気に入っていただけたら嬉しいです。将来、日本と海を越えたコラボレーションができることを願っています」
◆取材・文=沢井メグ
日本で見られるツァオ・ヨウニンさんの出演作
・『KANO 1931海の向こうの甲子園』 U-NEXT(見放題)
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・「恋するマフィア娘」 Netflix(見放題)
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