10月11日より公開中の映画『室井慎次 敗れざる者』、および11月15日(金)公開の『室井慎次 生き続ける者』。「踊る大捜査線」シリーズが、スクリーンに帰ってきた。柳葉敏郎演じるシリーズの人気キャラクター・室井慎次を中心としたストーリーで、SNSでは早くも「敗れざる者」を見た感想が飛び交っている。シリーズを通してさまざまな局面で存在感を放ち、ファンからも愛されてきた室井。このタイミングで、彼の魅力を改めて振り返ってみる。
警察組織内で重要な存在となる室井は、警視庁捜査一課の管理官。国立大学出身のキャリア警察官としてエリートの立場にあり、シリーズスタート当初は所轄の捜査員で主人公の青島俊作(織田裕二)と対立関係にあった。
組織のしがらみを意に介さない青島と、組織の論理に従う室井。水と油のような不仲っぷりだった2人だが、やがて芯にある“正義を追い求める心”を認めあう仲に。立場の違いを超えて友情を育んだ2人は、やがて青島が現場で尽力している間に、室井は警察組織の根本的な改革を図る…という暗黙の理念を一致させる。
はじめは所轄の現状を知らず、刑事たちを駒のように扱っていた室井。エリート街道まっしぐら、最短距離で出世して構造改革を果たそうとしていたゆえに足元が見えなかったのだろう。だが凶悪犯を逃してでも目の前で暴力を振るわれる女性を助けようとし、被害者家族の未来を気にかけ、立場上室井が我慢してきた数々の言葉を代弁してくれる青島を見て、次第に彼と心を通わせていくことに。
権力によって守られた軽犯罪犯を見逃さなければならなかったとき、「室井さんは官僚だから、立場上色々難しいでしょ。俺たち下が踏ん張りますから!」と青島に声をかけられた室井。そこで眉間のシワをいっそう深くしながら「絶対上にいってやる…」とつぶやくシーンは、いまでも鮮明に思い出せる“踊る”シリーズの名場面だ。
その後、室井は「捜査から政治を排除し、所轄と本庁の壁を取り払って、捜査員全員が信じたことをできるようにしたかった」と自身の夢を青島に語る。これに対して青島は、「そのために組織のなかでトップになってくれ」と室井に希望を託す。
同じ理想を共有した2人の、警察組織を変えるという約束。現場と本部、末端と頭脳では、それぞれ抱える課題も理念も異なる。「踊る大捜査線」はシリーズを通して、そうした“警察という巨大組織との闘い”が描かれている作品でもある。
目の前の悪を許さない青島と政治によって組織の改革を目指す室井、所轄の仲間に助けられる青島と海千山千の警察官僚に孤軍奮闘する室井、熱血な青島とクールな室井…。あらゆる面で正反対な2人だけに、視聴者の注目は青島と同様に室井へも注がれた。
シリーズ中では多彩なキャラクターたちが登場するなか、なかでも室井は特別な存在。だからこそ自身が主役となるスピンオフ映画制作に至り、今回の最新2部作にも繋がったのだ。
普段はクールで寡黙な室井だが、それだけに時折見せる優しさや仲間への気遣いがファンの心を掴む。特に青島との間ではあくまで上司としての立場を保ちながらも、青島の行動を理解し支援しようとする姿勢が描かれている。
結果的に残念な結末を迎えたものの、実際にTVシリーズ第4話では青島を捜査一課の捜査に加えたことも。目の前の被害を見捨てられず暴走した青島に、「私の下で働いてほしかった。残念だ」と素直な気持ちを述べていた。クールな室井の信頼が垣間見えるシーンだ。
そんな室井慎次が持つ魅力の源泉は、言うまでもなく柳葉の演技力がベース。静かで抑制された表情、声色、四角四面の所作…大きな組織を束ねる警察官僚としての冷静さを巧みに表現している。
一方で室井のキャラクターは、単なる警察の上層部ではない。冷静さと情熱、正義感と人間味が共存する複雑な人物だ。そしてそれを強烈な目力、噛みしめたあごのこわばり、深い眉間のシワといった細かいポイントで表現しきるのが柳葉敏郎という名優の凄まじさなのだ。
また室井といえば、感情が高ぶるとつい地元・秋田のなまりが出るというお茶目な一面も。クールなだけではないちょっとした“抜け”が、彼の人間性をさらに深めている。「おじまげな」「ほんじなっす」などの秋田言葉は、「青島、確保だ」とともに室井語録に欠かせない。
なお公開中の『室井慎次 敗れざる者』では、室井が“警察を辞めて”故郷・秋田で生活しているという驚きの状態からスタートする。彼は秋田で犯罪関係者の子どもたちを引き取って、里親となっていたのだ。
子どもたちからも「室井さん」と呼ばれ、優しい表情で応えるその仕草も我々が知る“室井慎次”ではある。だが戦友・青島と交わした約束を果たさず、定年前に職を辞した理由とはいったいなんなのだろうか。
1997年のTVシリーズ放送開始から27年が経っても、いまだファンの心を踊らせる室井慎次という男。公開中の「敗れざる者」だけでなく11月15日(金)公開の(11/8〜10までの先行上映が決まりました)『室井慎次 生き続ける者』のみならず、過去作の名シーンもこの機に振り返ってみたいものだ。青島の対となる室井の物語は、まだまだ完結しそうにない。
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