美奈子さんへ あの時の僕たち
僕らは不思議な日々を過ごしたね。二人でいる時はいつも本田美奈子でも楠瀬誠志郎でもなかった。兄弟とも違う。恋人とも違う。友人とも違う。不思議な二人だった。
あの時、一緒に何曲書いただろうか。毎日のように生まれていたね。美奈子さんの歌にはいろいろな重さがあった。僕にのしかかってくるように歌う時。僕の体を滑るように歌う時。「手をつないで」と感じさせてくれるように歌う時。
アイドル時代を僕は知らない。彼女は大人だった。清らかな寄り添い方を知っている大人だった。そして何よりも何でもない普遍的なことをこよなく愛したがっていた人だった。
薄暗いスタジオで、空間の一点をじっと見つめていた。そういう時に、心の美しさが横顔に現われてしまう人。黙って淑やかに人に尽くす心を隠す人。尋常あえかな心に、毎朝大きな翼を付ける人。慄く心で剣を掲げ、然ても笑みをたたえ先頭切って走る果断な戦士だった人。終生忘れ難し人。
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