長らくテレビを見ていなかったライター・城戸さんが、TVerで見た番組を独特な視点で語る連載です。今回は『ケンコバのほろ酔いビジホ泊 全国版』(BS朝日)をチョイス。
ケンドーコバヤシがビジネスホテルを予約し、その周辺の居酒屋で酒を飲むという、ただそれだけの番組『ケンコバのほろよいビジホ泊』。本当に飾らない作りで、このシンプルさが素晴らしいのだが、ビジネスホテルと、その周辺の飲食店というのは、シンプルというのじゃ片付けられないほど夢が詰まっている。私はよく旅行に行きたいと口走るが、本当は旅行なんてどうでもよく、ただビジネスホテルに泊まりたいのだ。そして、その周辺の店でメシを食いたい。旅行ということもあって、メシ屋の生中を注文してしまうだろう。
ビジネスホテルには22時までに帰りたい。初めて訪れた街の風景ももちろん大事だが、ビジネスホテルでの時間も超大事。風呂に入って室内着に着替えたあと外に出なくても済むように、酒や食べ物を購入しておこう。しかし、風呂上りにもう一度外に出るというのも悪くはないだろう。往路で疲れ、シャワーでさっぱりした身体を、夜の風が知らないにおいをもってして撫でてくれるだろう。しかし、あまり外にいても湯冷めしてしまう。旅先の夜というのは、冷えるものだ。早めに帰ろう。ホテルのロビーで、目が合った受付のスタッフが頭を下げてくれることがある。私はただ外にビールを買いに行って、いまエレベーターを待っているだけのJust a Man……と申し訳なく思いながら、その非日常を楽しもう。
部屋に着いたら、その地方の番組を楽しもう。明日も早いのに夜更かしをして、真夜中の通販番組を見よう。そこであのタレントを久しぶりに見よう。ベッドのヘッドボードにコンセントがついていればラッキーだ。古いところだったりすると、ベッドとコンセントが離れている場合がある。スマホを充電するのを忘れないようにしよう。家の布団では再現できない、あのシーツのつるっとした感じや、枕のにおいを楽しもう。旅先ということもあって、うまく眠れないだろう。念のため買っておいたもう一本のビールを開けて、まだ放送しているチャンネルを探してみよう。
ギリギリの時間にチェックアウトをして、外に出てから忘れ物を思い出そう。さっき返したカードキーを受付からもう一度借りて、エレベーターに乗ろう。清掃のスタッフと一緒になるだろう。この時間にリュックを背負って上りのエレベーターに乗っている人間は十中八九、部屋に忘れ物をしたマヌケだ。部屋に忘れ物をしたマヌケですという顔で703号室のある7階に着くのを待とう。無事に発見して、外に出たら、旅行はもう終わったようなものだ。暗い顔をして、明日からの通常生活にゲーを吐こう。
■文/城戸
この記事の関連情報はこちら(WEBサイト ザテレビジョン)