「陳情令」の大ヒット後は、日本でも彼の主演ドラマが次々と放送・配信される人気ぶり。2023年には映画主演映画「無名」「ボーン・トゥ・フライ」の演技が認められ、「第20回映画チャンネル メディア大賞」で主演男優賞を受賞するなど、いま中国でもっとも注目を集める若手俳優の一人だ。
過去にはアイドルとしても活動しており、俳優以外に歌手、ダンサー、ラッパー、バイク・レーサーの顔も持つ。 中でもダンサーとしてサバイバル番組でチャンピオンに輝き、中国版「プロデュース101」でダンストレーナーを務めるなど才能を発揮している。
そんな彼にとって本作「追風者~金融界の夜明けへ~」は、ハードボイルドな刑事を演じた現代ドラマ「冰雨火~BEING A HERO~」以来、1年半ぶりのドラマ出演作だ。演じる若来は、身なりも質素で一見すると気の弱そうなキャラクター。だが、実は天才的な計算能力と記憶力、それらに裏打ちされた判断力を持っていて、ここぞという時に本来の魅力が顔を出す。
序盤でその魅力が発揮されるのが、図南との初対面の場でもある中央銀行採用面接のワンシーン。課題を与えられた途端、おどおどした態度から一変し、いきいきと自信あふれる表情に。渡された資料を瞬時に覚えて楽々と暗唱し、天才の片りんを覗かせて図南と視聴者の心をがっちり掴んでみせる。ギャップの魅力もさることながら、序盤から“この主人公ならすごいことをやり遂げてみせるに違いない”という期待感を抱かせてくれる魅力を持ったキャラクターだ。
加えて、若来と信頼関係で結ばれる図南・近真の2人がまた、魅力的だ。大ヒット時代劇「慶余年~麒麟児、現る~」(2019年)の実力派ワン・ヤンが若来の才能を見出す経済界の大物・沈図南を、同じく「慶余年―」のヒロイン役でブレイクしたスター女優リー・チンは、国民党の大物・図南の妹でありながら、秘密裡に活動する共産党員という2つの異なる顔を持つヒロイン沈近真を演じている。
強い信頼関係で結ばれながらも、国民党と共産党という対立軸の中で互いに本心を隠し、命懸けの騙し合いをしなければならない3人…。“信念”と“信頼”のはざまで揺れ動く切ない関係性が激しく胸を打つ。
腐敗はびこる金融界で、信念を貫くか信頼を守り通すかの決断を迫られる若来。手に汗握る攻防の中、薄氷を踏むようにギリギリのところで切り抜けていく若来の活躍ぶりにスカッとさせられ、後半は3人の絆とどうしようもない対立に涙を禁じ得ない…。クライマックスまで飽きることなく惹きつける力強い脚本も見どころだ。
耽美な藍忘機とは対極の、理想のために泥臭く前進するワン・イーボーに会えるドラマ「追風者~金融界の夜明けへ~」は11月10日(日)よりCS放送「衛星劇場」で日本初放送。
◆文=酒寄美智子
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