一方で、ジャンヒョンの深く大きな愛情を一身に受け止めるギルチェも魅力的。本作が初の時代劇ドラマ主演となるアン・ウンジンが演じている。
2012年に舞台デビュー、2018年にドラマデビューを果たしたウンジンが注目を集めたのはドラマ「賢い医師生活」(2020年)。いつも一生懸命で仕事に情熱を傾ける産婦人科研修医チュ・ミンハ役で好印象を残し、本作への大抜擢につながった。
ギルチェは片想い相手の気を引こうと一生懸命だった世間知らずのお嬢様から、戦争を経験しつらい思いをする中で、泥だらけになって周囲の人々を支えるたくましい女性へと成長していく。ウンジンの確かな演技力が、「トンイ」や「イニョプの道」といった女性を主人公にした一代記ドラマのような感動を与えてくれる。
戦の時代を背景として描かれるジャンヒョンとギルチェの運命の愛、そしてそれを実現させたミンとウンジンの息の合ったカップリングが、本作最大の見どころだ。
序盤なかなかギルチェに相手にされないジャンヒョンだが、彼女にどんなに冷たくされても「私を慕わずとも、忘れずにいてほしい。今日、私とともにいた瞬間を忘れないでください」とけなげで、勝ち目のない戦いに出ていく前には「私が運よく生きて戻ったらその時は、そなたの唇をください」と愛おしそうにギルチェを見つめる。そんな、普段は飄々としたジャンヒョンが時おり覗かせる器の大きな愛情が、ギルチェを、そして視聴者を飲み込んでいく。
2人のキスシーンも絶品。以前、バラエティ番組で「実際のキスと演技のキスは違う。実際には激しくキスしてもいいが、演技のキスは美しく見えるようにしなければならない」と告白して話題を集めたミン。そんな彼ならではの、ウンジンを上手にリードするキスシーンが時に甘く、時には切なく2人のロマンスを彩っていく。中でも、視聴率が10%の大台を突破した7話の初々しい初キスシーンは必見だ。
史実を背景に、骨太な世界観で繰り広げられる切ない純愛が胸を打つ本作。韓国での放送時は、あまりの反響で当初よりも1話延長され、最終話は100分の拡大版で放送されたほどで、“韓国でもっとも愛されるテレビ番組”ランキングで2か月連続1位を記録した。
さらに放送後も「2023 MBC演技大賞」8冠、「第60回百想芸術大賞」作品賞&男性最優秀演技賞受賞、「2023 グリメ賞」5冠…など数々の受賞式で快挙を成し遂げ、空前の「恋人」ブームを巻き起こした。“演技の神”ナムグン・ミン史上最高の一作といって間違いないだろう。
特に「2023 MBC演技大賞」では、ミンの大賞とウンジンの女性最優秀演技賞に加え、2人がベストカップル賞も受賞。受賞発表前には、ウンジンが「この賞を獲得できてこそ『恋人』が完成するのではないかと思うので、絶対獲りたいです」と賞獲得に並々ならぬ意欲を見せ、隣に座るミンも「僕が今までに演技したパートナーの中で一番良かった。ここで獲れなければもう機会は二度とないだろうと思うほどすごくいい呼吸だったので、逃したくないです」と相思相愛ぶりを見せつけ、注目を集めた。
無事ベストカップル賞を獲得し、名実ともにこの年を代表するカップルとなった2人の熱演が光る「恋人~あの日聞いた花の咲く音~」は11月18日(月)から「衛星劇場」にて放送される。胸を打つ純愛にじっくり浸りたい名作だ。
◆文=酒寄美智子
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