「SHOGUN 将軍」は“異文化コミュニケーション”の結晶 米エミー賞18冠“最高の評価”受けた理由解説

2024/11/15 07:10 配信

ドラマ コラム

「SHOGUN 将軍」第9話より(C) 2024 Disney and its related entities Courtesy of FX Networks

二階堂ふみ“落葉の方”、穂志もえか“藤”…存在感抜群の女性たち


賢さと勇気、さらに長刀を構えて戦う強さを兼ね備えた鞠子はもちろん、二階堂ふみ演じる太閤の側室・落葉の方が発する凄み、向里祐香演じる伊豆の遊女・菊のなまめかしい色気など、女性キャストの存在感も抜群だ。

「SHOGUN 将軍」第6話より(C) 2024 Disney and its related entities Courtesy of FX Networks


中でも注目を集めたのが、按針の妻となる藤(穂志もえか)。彼女は、夫自身の失態が原因で夫と幼いわが子を亡くし、その上“異人の妻”になるという過酷な運命に翻弄(ほんろう)されながらも、粛々と按針の妻としての務めを果たす。全身から立ち上る“武士の妻”の誇りが、欧米視聴者の心にも響いた。4話で描かれる“銃を構えたジャパニーズ・プリンセス”のかわいらしさとたくましさのギャップに撃ち抜かれるファンが続出し、「Fujisama」を称える英語コメントや彼女のリアクションミームがSNS上で飛び交った。

「SHOGUN 将軍」第4話より(C) 2024 Disney and its related entities Courtesy of FX Networks


日本文化ブームに火をつけた1980年版「将軍」


さらに、「SHOGUN 将軍」がこれほどまでに米エンタメ界で受け入れられたのには“下敷き”もあった。それが、同じ小説を原作に米NBCで制作・放送された1980年版ドラマ「将軍 SHOGUN」だ。

ブラックソーンをリチャード・チェンバレンが、吉井虎永を三船敏郎が、戸田まり子を島田陽子が演じた1980年版も、全米平均30%超という記録的な視聴率を獲得。サワイ以前に「エミー賞」主演女優賞にノミネートされた唯一の日本人が、この作品の島田だ。

この1980年版「将軍」が、日本文化ブームの火付け役になったと言われている。“page-turner(読みだしたら止まらない本)”とファンの多い原作本しかり、1980年版「将軍」しかり、英語圏の視聴者が“中世日本”を深く理解する土壌はすでにあったのだ。

ブラックソーンがストーリーの中心だった1980年版「将軍」に対し、2024年版「SHOGUN 将軍」はセリフの7割が日本語で、日本人同士の人間関係もより深く描かれている。

そしてその分、言語間のコミュニケーション、中でも言葉を訳して伝える側面にスポットが当たっている。マークス氏が「エミー賞」作品賞受賞の壇上で「『SHOGUN 将軍』は翻訳に関するショーです」と口にしたのはこの部分だ。

ブラックソーンが初めて虎永の前に出た時に“通詞(通訳)”を務めたのは、宗教的に対立しているポルトガル人宣教師。“通詞”はブラックソーンがごく初期に覚えた日本語の一つであり、2話にはブラックソーンが敵意をむき出しにして「ポルトガルに有利に話をねじ曲げる気か」と宣教師にかみつくシーンもある。発した言葉が常に正確に伝わるとは限らないのだ。

一方、代わって通詞を務めることになった鞠子は、対立しがちな侍たちとブラックソーンの言葉の角をうまく削り、まろやかな言葉に変換して伝えている。このケースではポジティブな意味合いで、実際の発言と鞠子が訳した言葉のニュアンスが微妙に異なり、字幕によって視聴者もそれを味わうことができる。そしてその差異が、ストーリーに奥行きを生んでいる。

この点も2024年版「SHOGUN 将軍」ならではの見どころの一つだ。「SHOGUN 将軍」は米辛口批評サイト・Rotten Tomatoesでレビュー評価100%を記録したことも大きな話題となったが、そのRotten Tomatoesの公式YouTubeチャンネルに真田、サワイ、ジャーヴィスが出演した際、MCのニッキ・ノヴァクも「すごく面白いと思ったのは、(ブラックソーンの通詞を務める鞠子が)言葉を時には訳して、時にはあえて訳さない、そういう場面がありましたよね」と言及している。

「SHOGUN 将軍」第4話より(C) 2024 Disney and its related entities Courtesy of FX Networks