横浜流星主演の映画「正体」(11月29日公開)の公開を記念した特集が、民放公式テレビ配信サービス・TVerにて開催中。出演キャストの過去ドラマ17作品が無料配信されている。今回はその中から、主演の横浜がブレイクするきっかけとなったTBSドラマ「初めて恋をした日に読む話」の見どころや横浜の俳優としての魅力を紹介する。
2019年1月期に放送されたドラマ「初めて恋をした日に読む話」。通称「はじこい」として視聴者に親しまれた本作は、「Cookie」(集英社)で現在も連載中の持田あきによる同名少女漫画を原作としたラブストーリーで、主演の深田恭子演じるアラサー予備校講師の春見順子がタイプの違う3人の男性からアプローチされる様が描かれた。
そんな現実離れした甘い恋愛ドラマ、大人にはキツイ…と思うかもしれないが、ちょっと待ってほしい。本作は、ちょっとやそっとで心が動かなくなった大人にこそ刺さる一種の人生再起の物語でもあるのだ。
主人公の順子は学生時代、誰もが認める優等生だったが、高校受験に失敗。志望校の東大に入れず、就職活動に失敗して三流予備校に就職したものの、講師としては鳴かず飛ばずでクビ寸前だった。さらには婚活もうまくいかず、母親からはもはや見捨てられている。
そんな中で出会ったのが、ピンク頭の男子高校生・由利匡平(横浜流星)だ。由利は文科省局長の父親を持つが、堅物で自分の理想を押し付けてくる父親に反発し、底辺高校で不良仲間とつるんでいた。
そんな匡平が過去の自分と重なった順子は、彼を東大に合格させることを誓う。順子と匡平が講師と生徒という立場を超えて心を通わせていく姿ももちろん見どころだが、ともに落ちこぼれのレッテルを貼られた二人が東大受験を通じて人生を切り開いていく過程に勇気をもらえる人は多いはずだ。
また、本作は何よりキャラクターが魅力的。特に、順子を取り巻く3人の男性はそれぞれ違う良さがあって、「一人には絞れない!」とヒロインになった気持ちで頭を悩ませることができる。
なかでもオトナ女子の心に刺さるのが、順子のいとこである八雲雅志(永山絢斗)だろう。中学も高校も順子と同じだが、雅志はストレートで東大に合格し、大手商社に就職した超ハイスペックマン。でも実は奥手で、ずっと順子に想いを寄せているが、全然気づいてもらえない。永山の醸し出す雰囲気が安心感抜群で、大事なところで決まらない残念なところも愛らしい。
一方、ちょっと危険なオーラが刺激的で、惹かれざるを得ないのが山下一真(中村倫也)。山下の高校の同級生で、彼女に勉強を教えてもらったことで人生が変わった過去を持つ。現在は由利の担任教師。元不良というだけあってパッと見は怖そうだが、順子には優しくて、中村が体現する大人の色気が堪らない!
そして何より多くの女性視聴者の心を捉えたのが、“ゆりゆり”こと由利匡平だ。演じた横浜は雑誌「ニコラ」(新潮社)のモデルを務めたのち、テレビドラマ初出演となった「仮面ライダーフォーゼ」で(テレビ朝日系)で主人公の親友役を好演。イケメン俳優の登竜門、スーパー戦隊シリーズ「烈車戦隊トッキュウジャー」(テレビ朝日系)にトッキュウ4号/ヒカリ役で出演、GReeeeNの名曲をモチーフにした映画「愛唄 -約束のナクヒト-」で主演を務めるなど、すでに若手注目株ではあった。しかし、本作に出演したことでインスタグラムのフォロワー数が14万人から82万人に急増したことからも由利を演じる横浜が世間に与えたインパクトは大きかったことがわかる。
まずはその再現度の高さ。由利は原作からピンク頭の設定だが、派手な髪色のキャラは実写化するとコスプレ感が強まることが多い。だが、横浜の場合は全く違和感がなく驚くほどに似合っており、まさに“無敵ピンク”だった。もちろん、ビジュアル面だけじゃない。不良だけど家柄がよく、実は真面目で一生懸命勉強に取り組み、15歳年上の順子に本気で恋してまっすぐ向かっていく。…という漫画の世界でしかあり得ない設定にもかかわらず、視聴者が最初から最後まで物語に没入できたのは横浜の演技力に依るところが大きい。順子に対してドキドキしている時の鼓動まで聞こえてくるような横浜の豊かな感情表現が由利匡平というキャラクターにリアリティをもたらしていた。
「はじこい」でブレイクを果たした横浜は、「私たちはどうかしている」(日本テレビ系)や「着飾る恋には理由があって」(TBS系)などのドラマに次々と出演する一方、映画俳優としても欠かせない存在となっていく。特に話題となったのが、凪良ゆうの小説を原作とした映画「流浪の月」だろう。本作で横浜は誘拐事件の元被害者である家内更紗(広瀬すず)を暴力で支配する恋人・中瀬亮を演じ、新境地を開いた。目を背けたくなるような暴力シーンもあり、その鬼気迫る演技に恐怖を覚えた人も多いだろう。だが、更紗を守りたいという気持ちは本当で、それを正しい形で実行できないもどかしさ、苦しみも痛いほどに伝わってきて胸が締め付けられた。横浜はそうやってどんな役にも血肉を与える。
来年は蔦屋重三郎の生涯を描く大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」で主演を務めることが決定しており、ますます注目される横浜。そんな彼が主演を務める映画「正体」は、染井為人による同名小説を実写映画化したサスペンスだ。第43回日本アカデミー賞で最優秀作品賞を受賞した「新聞記者」や興行収入30億円を突破した「余命10年」で知られる藤井道人監督がメガホンを取った。
物語は、日本中を震撼させた殺人事件の容疑者として逮捕され、死刑判決を受けた主人公の鏑木が脱走することからスタート。全国に指名手配される中、潜伏する先々で別人になりすます鏑木の343日間に及ぶ逃走劇を追う。
約4年前に企画が立ち上がり、主演の横浜は2023年7月のクランクインから藤井監督と脚本やセリフについて綿密に議論を重ねてきたという。そんな思い入れのある作品で、横浜は事件前の高校生「鏑木慶一」の姿から、和也(森本慎太郎)とともに工場で日雇い労働者として働く「ベンゾー」、沙耶香(吉岡里帆)と出会うフリーライターの「那須」、水産加工工場で勤務する「久間」、舞(山田杏奈)が働く介護施設に勤める介護職員「桜井」まで、“5つの顔”を演じ分ける。雰囲気や仕草、目線に至るまで、あらゆる要素を変化させ、全く違う人間になりきる横浜の演技は見応えがありそうだ。
横浜を取り巻くキャストも豪華で、田中哲司、松重豊、山田孝之、西田尚美、原日出子、森田甘路、駿河太郎らが出演する。彼らが過去に出演した名作ドラマも多数無料配信されているので、ぜひTVerの特集ページでチェックしてみてほしい。
■文/苫とり子
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