卓越したVFXや豪華な衣装・セットなどを武器に、近年世界的人気を獲得しつつあるのが中国ドラマ作品。ファンタジー色の強い歴史・武侠作品といったオリエンタルなテーマの人気が高い一方、近年ではドキュメンタリーにも注目が集まっている。なかでも非常に話題をさらったのが、挑戦的な社会風刺作品だ。中国の“不都合な真実”を刺激的に描くことで、ふと国や法制度について考えたくなる名作映画を振り返る。
2021年公開の中国映画「シスター 夏のわかれ道」。物語の背景にあるのは、中国で2015年まで続いたいわゆる「一人っ子政策」が招いた社会問題だ。両親の死亡事故をきっかけに“弟”を突然預けられて人生の選択を迫られた女性の葛藤と、姉弟の絆を描いたヒューマンドラマ映画となっている。
“その選択”が中国全土を巻き込む社会現象にもなった感動作。2週連続興収No.1の快挙を成し遂げ、興収171億円を突破するという記録を叩き出した。
看護師として働く主人公アン・ラン(チャン・ツィフォン)は、医者になるために北京の大学院進学を目指していた。しかしある日、疎遠だった両親を交通事故で失ったことで顔もよくわからない6歳の弟・ズーハン(ダレン・キム)を預かることに。
“望まれなかった娘”として早くから親元を離れて自立してきた彼女と、待望の長男として愛情を受けて育ってきたズーハン。自分の人生か、姉として生きるか…迷いながらも現代を生きるすべての人が、アン・ランの選択に感動した。
揺れ動く“いま”の中国社会の背景にある一人っ子政策と家父長制の影に切り込み、すべての人に希望と勇気を与えた同作。中国では映画を鑑賞した人がSNSで「SISTERをどう評価するか」「個人の価値は家族の価値より大切なのだろうか?」と感動と共感の熱い声を共有し、日本のミニシアターランキング1位を獲得するまでに至る。
原則として一組の夫婦に子どもは1人…そのため、“望まれなかった娘”であるアン・ランは存在しないことにされた。演じるのは、長春映画祭で最優秀女優賞など輝かしいタイトルを手にしている新世代のスター・チャン・ツィフォン。彼女の演技力と相まって、社会に“選択”を強いられたアン・ランの決意が胸を打つ。
女性が背負う立場の難しさ、社会のために作られたルールが持つ歪み、男と女の固定化された役割。いままで意識の片隅にしかいなかった疑問を叩きつけ、強烈なインパクトとともに考えさせられる一作だ。
2006年公開の中国映画「天安門、恋人たち」は、1980年代末の中国北京を舞台にした青春映画。時代に翻弄され、時を越えて愛に揺れ動く男女のラブストーリーを描く。
監督を務めるのは、世に名作を残し続ける中国のロウ・イエ監督。彼は中国国内での上映が禁止されるタブー的要素にも果敢に挑む、新進的監督の1人だ。本作においても第59回カンヌ国際映画祭での上映後、中国国内での上映禁止と監督の5年間の表現活動禁止処分に見舞われた。
主人公は1987年、家族と恋人のいる故郷を離れ、中国東北地方から北京の大学に入学する美しい娘ユー・ホン(ハオ・レイ)。彼女は大学で運命の恋人チョウ・ウェイ(グオ・シャオドン)に出会う。やがて2人は恋に落ち、狂おしく愛し合い、そして激しくぶつかり合う。
しかし1989年6月4日に起きた天安門事件を境に、2人は離ればなれに。数年後、心の中ではお互いを忘れることができない2人が再会を果たすが…。
監督自ら学生として天安門事件に参加していた経験を持ち、事件直後から映画の構想を温め続けていたという思い入れのある同作。中国北京のリアルな時代背景が描かれている。だが中国ではタブー視されている天安門事件を背景にしたこともあり、前述のとおり中国国内での上映は禁止に。
恋愛に奔放なユー・ホンの人生を追って、天安門事件をきっかけに大きく変わる社会情勢や価値観の変革を描いた同作。ユー・ホンはチョウ・ウェイを愛しすぎるがゆえに別れを繰り出すと仕事を変え、恋人を変えて各地を転々とする。
自由と民主化を求めて学生が熱狂した時代、お互いを思いながら思うままに生きた2人。息が詰まるような結末は、時代の奔流がもたらした苦みを感じられずにいられない。
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