俳優の高石あかりがヒロイン・松野トキ役を務める、2025年度後期連続テレビ小説「ばけばけ」(NHK総合ほか)で、トキの夫・ヘブン役にトミー・バストウが決まった。トミーは国内外から集まった1767人が参加したオーディションを勝ち抜き、大役をつかんだ。そんな彼は、2024年に配信されるや日本のみならず世界から大きな注目を集め、先日“米・テレビ界のアカデミー賞”ともいわれる「第78回エミー賞」で最多18部門を受賞したドラマ「SHOGUN 将軍」にカトリックの宣教師役で出演している。今回はそんなトミーについて紹介する。
1991年8月26日生まれ、イギリス出身のトミーは、2007年にロックバンド・FranKoを結成し、リードボーカルを担当。同バンドは2013年に活動休止し、約10年後の2023年に活動を再開したばかり。それでも10年のブランクを感じさせないほど精力的に活動しており、SNSでもその様子を発信している。
俳優としては「ジョージアの日記/ゆーうつでキラキラな毎日」(2008年)でメジャー映画に初登場。「GODZILLA ゴジラ」や「ノクターナル・アニマルズ」などで知られるアーロン・テイラー=ジョンソンと共演し、イギリスで俳優としてのキャリアをスタートさせると、テレビドラマ「Man in an Orange Shirt」(2017年)などに出演。
2018年にはアメリカにも活動範囲を広げ、ハイ・コンセプトSFシリーズ「The Crossing/未来からの漂流者」(2018年)、2021年にはケリー・マディソン監督による「ネバー・バックダウン/自由への反乱」に出演した。同作は借金を返すため、アマチュア格闘家としてイタリアの会員制地下格闘技のリングに上がることになるアーニャ(オリヴィア・ポピカ)が主人公。アーニャは自分が人身売買組織に拉致され戦わされている多くの女性の1人になったと気付く。彼女に残された選択肢は組織の要求に応じて試合に臨むか、他の女性たちと協力して残忍な誘拐犯を倒すか、の二択だった――というストーリーの作品で、トミーはアーニャの弟・アスランを演じた。
その他、日独合作のドラマ「ザ・ウィンドウ」(2022年)に出演するなど日本との縁も。そして2024年にはディズニープラスのスターで独占配信されたドラマ「SHOGUN 将軍」に出演し、カトリックの宣教師マルティン・アルヴィト司祭を演じ、注目された。
同作は「トップガン マーヴェリック」の原案者・ジャスティン・マークス氏が製作総指揮を担当し、真田広之が主演のみならずプロデュースも担当。1600年代の“天下分け目の戦い”前夜の日本を舞台に、戦国最強の武将・吉井虎永(真田)、漂着したイギリス人航海士ジョン・ブラックソーン(のちの按針/コズモ・ジャーヴィス)、ブラックソーンの通訳を務めることになったキリシタン・戸田鞠子(アンナ・サワイ)らが直面する陰謀と策略を描いた。
ハリウッド製作でありながら、真田がこだわった「本当の日本を見せること」を実現させ、時代考証、所作はもちろん、セリフのほとんどを日本語にするなど、これまでにないハリウッド版戦国スペクタクルとして話題を呼び、エミー賞で多数の賞を受賞、シーズン2の製作も既に決まっている。
トミーが演じた心優しいポルトガル人の司祭・アルヴィトは、幼少期に日本に派遣された熟練の通訳者であり、虎永の通訳も務める。ジョアン・ロドリゲスという、イエズス会の通訳や交渉役を務めたポルトガル人司祭にインスパイアされたキャラクターだ。同作では同じくキリシタンである鞠子の“過去”を知る人物であり、彼女をレディ・マリアと呼んで気にかけている。終盤、鞠子が自死を決意した際に告解した相手も彼だ。
ちなみにトミーは「日本語は日本の文化や映画にひかれて約10年学びました」というほどで、日本語が堪能。劇中で通訳として披露する日本語もなめらかだった。
先日の「ばけばけ」出演者発表会見には着物姿で登壇し、「日本語を勉強中のトミーです。“カタコト”ですが許してください」と笑顔であいさつ。謙遜しながらも会見のほとんどを日本語で語るなど、日本へのリスペクトを忘れない。自身のSNSで「よく日本語上達のコツを聞かれるけど、近道はない。ただ頑張るだけなんです」と断言していたことからも、勉強熱心なところがうかがえる。
初めての朝ドラ出演、それもヒロインの夫という大役を務めるにあたって「モデルの小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)を演じることは大きなチャレンジ。日本や冒険が好きだったり繊細だったりするところはハーンと似ていますが、全然違うところもあります。自分の人生や経験と合わせてハーンのエッセンスをヘブンとして、うそ偽りなく演技で伝えたいと思います。精一杯頑張ります」とコメントしており、脚本を手掛けるふじきみつ彦氏は「ヘブンは強い個性を持った人物のため、彼を演じられる方にはなかなか出会えないだろうと思っていたのですが…、出会えました。トミーさんは我々に、ヘブンってきっとこんな人だったんだろうと思わせてくれました」と評している。
熱心なファンが多い反面、常に厳しい目で見られる対象でもあり、良くも悪くも注目されるのが朝ドラの宿命だが、日本好きなトミーが日本の朝ドラファンに受け入れられる未来は、そう遠くないはずだ。
◆文=アルスラン鴫山
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