そして「【推しの子】」劇中の、アイドルグループ「B小町」の不動のエース・アイ役だ。漫画、アニメが共にヒットし、コスプレーヤーや現役アイドル、元アイドルもコスプレを試みた完璧で究極のアイドルキャラクター。しかもこういった実写化には何かとネガティブな前評判が原作のファンからつきまとう。そこに白羽の矢が立ったのが齋藤となれば、単にネームバリューだけで選ばれたのか?とも思われかねない。
一度は辞退した彼女が何を考えたか。11月に行われたワールドプレミアではその心境を「実写化するにあたって何を描きたいかっていうお話を具体的に頂いた時に、それが狙いなら私でも、もしかしたらアイを演じられるかもしれないなと。スタッフさんの熱意を受け取らせていただいて、ちょっと頑張ってみようかなと受けさせていただきました」と語った。
そして「私は約12年ぐらいアイドルをやらせていただいて、それを卒業してからのこれだったので、相当の覚悟が必要でした。でも自分のファンの人がもう2度とアイドル姿の私を見られないと思っていたのに見られるっていう、そういうので楽しんでいただけたらいいかなと」と遊び心と意欲を見せた。アイを実写で演じるからには、いわゆる“ガワ”を寄せるだけでなく乃木坂46で12年間味わってきた苦楽もぶつけたい。それでこそ、芸能界の光も闇も描いたこの作品に自分が出演する意義がある、という決意表明でもあった。
B小町のライブシーンは地下アイドル的なライブ感があって、優雅なフォーメーションダンスが見どころだった乃木坂46のライブとも一味違う。むしろ乃木坂時代よりもキラキラしたアイドルに振り切った齋藤が見られるし、オフの場面では慈愛ある母の顔や、等身大のアイドルらしい笑顔にもなる。他のアイドルキャラクターと違って負の感情を全く見せないところは、死後に半ば神格化されるにふさわしい。確かに今このタイミングの齋藤でなければできなかったアイドル像だと、うなずいてしまう。
他にも、乃木坂46時代に初めてヒロイン役を務めた青春ラブストーリー映画「あの頃、君を追いかけた」(2018年)での早瀬真愛、ドラマ「いちばん好きな花」(2023年、フジテレビ系)での姉の潮ゆくえ(多部未華子)と二人暮らしをするこのみ役など、主役、脇役を問わず活躍してきた。
これだけ多くの役柄をモノにしてきた彼女は確かに、世の求めるままにどんなキャラクターにもなりきれるアイドル性を持っているのかもしれない。
◆文=大宮高史
この記事の関連情報はこちら(WEBサイト ザテレビジョン)