コミックの映像化や、ドラマのコミカライズなどが多い今、エンタメ好きとしてチェックしておきたいホットなマンガ情報をお届けする「ザテレビジョン マンガ部」。今回は、大学野球をめぐる熱い青春ドラマを描いた作品『戦場のスラッガー』をピックアップ。
作者の足立和平さんが10月27日にX(旧Twitter)で同作を投稿。そのツイートには2000件以上のいいねと共に、多くの反響コメントが寄せられた。この記事では、足立和平さんにインタビューを行い、創作のきっかけやこだわりについて語ってもらった。
難関である宝都大学に入学した兵藤匠は、3年間で一度も勝ち点を取れない弱小野球部のことを馬鹿にしていた。
実際にどれだけの弱さかを見てやろうと見学に行ったところ、野球部エースを務める奥井と、その妹でマネージャーをしている希に出会った。
希に一目惚れした兵藤は、かつて甲子園常連の大和高校の5番として活躍していたことを自慢し、「俺にはこの人らがなんで野球続けてるんかさっぱりわからんわ。勝てへんのわかってて努力するとかダサない?」と揶揄した。
これを聞いていた奥井は、兵藤に勝負を挑む。
バッターボックスに立った兵藤は、大学野球のレベルの高さに驚く。球速は大したことがないのに、思うように打てない。
兵藤の負けが確定すると、奥井から「ホンマに努力せぇへんねんな。手、スベッスべやん。大学野球、なめんなよ」と言われてしまう。このとき芽生えた悔しさがきっかけとなり、兵藤はしまいこんでいたバットを握るようになっていた。
そしてある日、奥井は兵藤のもとを訪れ野球部に誘う。一方の兵藤は高校時代、4番の座を狙って猛練習していたがその努力は報われず、チームメイトにも馬鹿にされたというトラウマがあり、野球をやる気になれずにいた。
そんな兵藤の気持ちを聞いてもなお、奥井は「なんでもええけどこのDVDでも観てやる気だせや」と、試合の様子をおさめたDVDを置いて帰ってしまう。奥井は、兵藤は宝都大学が勝利するためのラストピースだと考えていた。
4年生にとって最後の大会である秋季リーグも、残すはあと1試合。宝都は1勝1敗と食らいついており、なんとかここで勝ち星をあげたいところだった。
奥井と希からの熱い誘いを受けてついに入部した兵藤は、戦場のような試合風景に圧倒される。1対0で迎えた9回裏、宝都はワンヒットが出れば同点、ホームランならサヨナラ勝ちという局面に立った。
奥井に代わってバッターボックスに立った兵藤は、下半身の強さを武器に特訓を重ねた、独自の“ノーステップ打法”で勝負に出た。そこには、一度の失敗で挫折した昔の兵藤は居なかった——。
作品を読んだ読者からは、「面白かった!名作ありがとうございます」などの声が上がっていた。
——『戦場のスラッガー』を創作したきっかけや理由があればお教えください。
漫画を描き始めた当初は自分が野球経験があったこともあり野球漫画を連載したいと思っていました。
ただ一口に野球漫画と言っても少年野球、高校野球、プロ野球など色んな切り口があります。
どこにフォーカスすれば面白いだろうかと考えていた時に、高校時代の友人が出ている大学野球の応援に行く機会があったんです。
それまでは大学野球なんてどうせ草野球のようなサークル活動の一環でしょ?ぐらいに思っていました。
しかし蓋を開けてみれば「大学野球」というものがいかにレベルが高く、ドラマがあり、熱い競技なのかということがすぐにわかりました。
友人達が通っていた大学は東京大学と京都大学だったのですが、2大学の試合を見に行って驚きました。
なぜなら同じリーグの相手チームには数年前に甲子園で大活躍していた選手が何人もいたからです。
東大や京大にはあまりに無謀な戦い…。
けどそんな相手にすごく惜しい試合をすることもあるんです。なんならたまに勝ってるんです(!)。
もちろん大差で負けることの方が圧倒的に多いのですが、あと1本ヒットが出たら同点なのに…!というような場面で抑えられてしまい、結果1点差で負けるということが何度かありました。
ただ大学野球はリーグ戦なので3試合のうち先に2勝しなければ意味がない。たまに1勝するだけでは勝ち点は取れないんです。
彼らは勝ち点をもぎ取るためのもう1勝のために大学生活を懸けていたんです。
手に汗握りました…こんなに熱い世界は無いでしょう…!
そしてそれは友人達だけの話ではありません。
相手チームでは高校野球でプロに入れなかった実力者がプロへの扉をこじ開けるべく最後のリベンジに燃えているんです。
もちろん野球を続けようと思ったら社会人野球に進むという道もあります。しかし大半が大学で野球を終えます。プロの世界に、そして自分の野球人生に最後の戦いを挑んでいる。
そんな野球人生の分岐点にあたる大学野球というものに大きなロマンを感じ、この魅力をひとつのドラマとして描けたらなんて熱いだろうと考えたのがきっかけです。
——『戦場のスラッガー』を描くうえでこだわった点や、「ここを見てほしい」というポイントがあればお教えください。
とにかく野球シーンの作画に拘りました。
当時はまだ漫画を描き始めて歴も浅かったので粗いところはあるのですが、画面を見ただけですごく高いレベルの野球をしているんだということが感じられなければ大学野球の凄みを伝えられないと思ったので、野球に詳しい友人にもアドバイスをもらいながら必死で絵を描いたのを覚えています。
——本作の中で特に気に入っているシーンやセリフがあれば、理由と共にお教えください。
最後の打席で「ホンマ…ダサいねん!!」と自分に喝を入れるシーンです。
大学野球というものへの最大のリスペクトを持ち、過去の挫折から逃げてきた自分と向き合う決心をした主人公の表情とセリフをこの1コマに詰めました。
我ながら熱量が伝わる良いコマになったと思います。
——足立さんは本作のほかにも、『蝶々のように羽ばたいて』や『ラスト・スイング』など、野球を題材にした作品を多く描いていらっしゃいますが、作品のアイデアはどのようなところから着想を得ているのでしょうか。
僕は実際に自分が見たものや経験したことを描くことが多いです。
『蝶々のように羽ばたいて』はまさに大学野球で頑張っていた友人の試合中に実際にあったワンシーンから着想を得て描いたものです。
こういうスタンスなので日頃から色んなところにアンテナを張って足を運ぶようにしています。
なかなか腰が重いタイプなのでもっとたくさん動かないとなと反省することが多いですが…(笑)。
——足立さんの今後の展望や目標をお教えください。
過去に描いた野球漫画を読んでいただくとわかると思うのですが、僕は野球が上手くなる様を描きたいのではなく、1人の人間が野球というものを通して人として成長するという話を描いています。僕はそういった人間ドラマが好きです。
次作はバンド漫画を描きます。
題材がなんであれ、それを読んだ方が共感してくださるような人間を描ける作家になりたいと思っています。
——最後に、作品を楽しみにしている読者へメッセージをお願いします。
作品ごとにテイストは変わりますが、形はどうであれ僕は自分が描きたい人間の成長をとことん描いていきます。
これからも楽しんでもらえる漫画を描いていきますので応援していただけたら幸いです。
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