“ショートショートの神様”と呼ばれる作家・星新一氏の作品を、クリエーターたちが各3分で映像化したNHKの番組「星新一ショートショート」。同番組から3編のアニメーションを絵本化した「絵本 星新一ショートショート」が発売されている。その中の一編で、危険を察知するネズミたちと暮らす青年の姿を描いた「災難」を手掛けた外山光男氏に話を聞いた。
外山氏はアニメーションを中心に活動している映像作家。愛らしい絵で表現されるはかなげで神秘的な映像世界が注目を集めている。
――外山さんは同番組で「災難」と「さまよう犬」の2作を制作されましたが、どのように番組にかかわることになったんですか?
プロデューサーの方から「星さんの作品の中から作りたい物があったら言ってみて」と自由な感じで話を頂きました。でも僕は星さんの作品に今まで触れたことがなくて、早速読んでみたんですけど、初めはブラックユーモアというかゾッとする話という印象が強かったですね。でも、いろいろ読むうちに「さまよう犬」というすごくロマンチックな物語を見つけて、“星新一さん=ブラックユーモア”というイメージが崩壊しました。そしたら、今までブラックユーモアとしか受け取らなかった話からも人間の面白さがぐんぐん見えてきて、引き込まれていったんです。それで最初に「さまよう犬」を作ることになりました。
――2作目に「災難」を選んだ理由を教えてください。
ネズミと人間の災難の差が面白くて。主人公はお金の面でひどい目に遭ったり、地震に遭ったりするんですけど、客観的に見たらネズミに人生を託そうとしている時代背景が平和だなぁって(笑)。
――「災難」を作る上でこだわったことは何ですか?
ネズミを生き生き描くことですね。走り回ったり人間みたいに泣いたり。あと、最後の絵もこだわりました。原作ではオチの説明があるんですけど、それをなくして絵だけで表現したかったんです。星さんの作品を読むと、最後に直下型の“電流”みたいなものがストーンと落とされるんですよ。「災難」はオチを文章で言わない方が星さんの電流に似ていた。ゾッとするプラス何かがあるんですよね。スカされたような感じがするんです。そういう電流を守ろうと思いました。
――星さんと外山さんの世界観がすごくいい化学反応を起こしていました。
きっと星さんの作品に僕の感性を投影できる懐の広さがあるからだと思います。私小説を読むとその作家さんのイメージって断定されてしまって、景色も作家さんのものになるんですけど、星さんの場合、例えばネズミもどんなネズミとは書かずにただネズミと書いてあるだけだったり、一生懸命“わたくし”が出ないように気にされていたんだと思います。
――あらためて星さんの魅力ってなんだと思いますか?
1001話以上でオチの電流の種類が一話ずつ違っていることですね。ロマンチックな電流だったり、孤独感を感じさせる電流だったり。すごい詩を読んだ時や、長い映画を見た時のような感覚があります。
――絵本化の話を聞いたときはどう思いましたか?
最初はあの3分近い映像がちゃんと絵本になるのかなと不安だったんですが、試作品を見た時に、これなら大丈夫だなと思いました。絵本にするために絵を手直ししたり、背景を動かしたり、色味を気にしたり、そういうのに携われたこともうれしかったです。
――どのような人に読んでほしいですか?
星新一世代じゃない人たちですね。もともと星さんを読んでいた方は、この絵が星さんという確立したイメージとかがあると思うので、星さんを知らない人にとって自分の作品が入り口になってくれたらうれしいです。
――いつもどのようなものから作品のインスピレーションを得ているんですか?
僕の作品の出どころは日記なんです。日常で感じたことや、本やテレビで出会ったすてきな言葉をメモして、一週間くらいでノート一冊になります。あとは町で見掛ける子供の言葉からもインスピレーションを受けたりしますね。それと、海外のAmazonから輸入するフランスやスペインのインディーズ映画からも影響を受けています。シチュエーションとか色彩感とか、何でもやっていいんだっていう自由さを広げてくれるんです。
――今後の展望を教えてください。
描きたい物語がいくつかあって、とにかくそれを描くことですね。あとは量子力学とか素数に興味があります。あの謎を絵で解き明かしたい。数学は2次関数も分からないんですけど(笑)。そういう本を読んでたら、霊の世界とか時空の構造を解明するとか、すごくパラレルな世界が広がっていたんです。いつか勉強が追い付いたらそういう不思議な世界を描いてみたいですね。
この記事の関連情報はこちら(WEBサイト ザテレビジョン)