――今回、犬童監督から主演のオファーを受けられた際、どのように思われましたか?
監督とは、私が「ヘルタースケルター」に出演した翌年、日本アカデミー賞の授賞式で初めてお目にかかったんです。その際にお話しさせていただいた印象が強く残っていて。いつかお仕事でご一緒できたらいいなと、ずっと思っていました。
ですから、今回オファーをいただいたときは、ほぼ即決でしたね。自分の中に、犬童監督への絶対的な信頼感みたいなものがあったので、自分の直感を信じようと思いました。
――主人公・大石沙織は元アイドルで、今はスーパーのレジ係をしている女性です。演じるに当たってあたって意識されたこと、準備されたことはありましたか?
事前に準備するというよりは、実際に現場に立ってみて、そこで感じたことを基に、役を作り上げました。沙織を演じて感じたのは、すごく多面的なキャラクターだなということ。彼女は過去にアイドルとして挫折していて、その経験から逆に、自分というものをうまく出せなくなっている。
でも芯の部分には「本当はこういうふうに生きたかった」という強い思いも抱えている。沙織が心に抱えているもの自体は、実は多くの人たちと共通してるんじゃないかなとも感じました。
――本作が初タッグとなる犬童監督の演出はいかがでしたか?
すごく、やりがいがありました。全編が、今まで経験したこともない撮り方ばかりでした。舞台上で撮るシーンと実景シーンが混在していて、“人の世界”と“猫の世界”が入り混じっていたので、演じ分けが大変でしたけれど、全力投球でやりきるしかないなと(笑)。自分の限界を決めず、監督の演出の下でどこまでいけるか挑戦できたと思います。
――主人公・沙織にとって、愛猫(良男)はどのような存在だと?
たぶん沙織は、いろんなことに対して不器用な女性だと思うんです。周囲に対して自分をうまく出せないし、そういう自分にもどかしさを感じている。
彼女にとって良男は、そういう“好きになれない自分”もすべて引っくるめて受け入れてくれる、最大の理解者なんじゃないかな。人間の恋人とはちょっと違うのかもしれないけれど…なくてはならない存在。
これはペットに限った話ではなく、何かと良い関係で日々を過ごすことって、人にとって大事だと思うんですね。仕事で悩んだとき恋愛で悩んだとき、すべてを受け入れてくれる存在がいてくれること。
自分を癒やし、ハッピーにしてくれるものを、心から大切にすることって、すてきだなと。この映画に出演して、考えたりしました。
――クランクアップを迎えた、現在の思いを教えてください。
沢尻エリカさんの魅力と実力を実感できました。名作「ヘルタースケルター」を見た私は、沢尻さんの演技に感じ入り、アカデミー賞の受賞式の日に樋口真嗣監督と共に沢尻さんにその感動を伝えに行きました。
「いつか一緒に作品を」という下心があったのは当然です。沢尻さんはその時のことを覚えていてくれました。自分の下心に感謝です。
――作品に込めた思いを教えてください。
うまくいかないことの輝き、置いてきぼりを食らっている時間の魅惑。成功への希求ではなく、積極的な諦めを選んだときにこそ踏み出せる一歩、その爽快さ。
元アイドルの沙織が自分を見詰め、未来への答えを探す最中、揺れる心のダイナミックな動きを、映画の遊びと、演者たちの魅力でエンターテインメントにしていきたい。そして、究極の相棒“猫”、その存在の大きさを表現したい。世代や年齢に関係なく楽しめる、人生の絵本を描いてみました。
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