西野 たとえばテレビに対して交渉しようと思うなら、テレビに出なくていいって状況を作っとかないと。不利な条件を持って来られた時に、「俺、それやらないですよ」って言えない。これは全部に対してそう。テレビに対してもそうだし、出版社に対しても、吉本興業に対しても、「それだったら僕辞めます」っていう状況をとにかく作らないと、っていうのがすごくある。そっちのほうが、結果的におもしろくなるっていう。「辞めるぞ」っていうカードを持ってたほうが、吉本興業とも、もっとおもしろく付き合えるんじゃないかって。
又吉 僕も苦手なこと多いから、基本的には、「やりたいことをやる」っていうスタンスではあるけど。でも、 西野くんみたいに、はっきりと「こういう理由で」とか、「イヤなんで」とか、戦う姿勢を見せて断るというの少ない。「体調が悪い」とか、「苦手なんで足引っ張ると思うんでやめてください」とか(笑)。敵意みたいなものは、できるだけ目標到達まで隠してしまおうと。それじゃダメかもしれない、ってたまに思うけどね。
西野 いや、それでいいんだよ。
又吉 西野くんの『革命のファンファーレ』、読ましてもらったけど、誤解せぇへんようにしたいと思うのは、「売れないものはない。自分が売ろうとしないからや」って西野くん言ってるけど、それは作品はどうでもよくてってことじゃなくて、作品の質はちゃんと上げながら、プラスアルファもさぼらへんって話だから。そこ結構重要。
西野 そうだよね。
又吉 でもね、みんなすぐに受け入れられないんですよ。ものを作るって、作品がいいか悪いかだけで、後のこと考えるのは「ださい」っていう意識がまだありすぎて。で、『火花』で徳永が先輩の神谷に、「どんないい絵を描けても、額縁を何にするかで絵の印象は大きく変わる」(単行本『火花』一一七頁十三行目~)って言ってるのを、「額縁のこと気にしてるからダメなんだ」みたいなことを言う評論家がいて。でも「絵、さぼろ」て言ってるわけじゃないから、両方やから、って思うけど、でもこれは、作品の中で徳永が言ってることであって。
西野 言えよ、自分の口で(笑)。でも少し聞いたんだけど、『火花』も芥川賞を受賞してパッと花咲いたのはだいぶ後のことで、そこまで、あの手この手で頑張ってたんだよね、ちゃんと届ける作業を。見えないんだけど、地道にイベントを打ったり。
又吉 いやいやいや(笑)。
西野 でも、それがすごく大事だと思って。
又吉 そこのフットワークは軽いもんね。ライブとかは日常的なものやから、人前に出るのは慣れてるし。
西野 時代かもしんないね。前は「クオリティ」って言葉が完成度とイコールであったから。でも今、もしかしたら「クオリティが高い」っていうのは、お客さんが参加する余白が上手にデザインできているっていうことかもしんないね。みんなスマホで発信することに慣れてるから、受信する一方だとちょっと辛い。であれば、「小っちゃいところから、僕たち私たちが『火花』を育てていったんだよ」って言いたいし、それが芥川賞まで獲ろうもんなら、「やったぞ!」って、もともと火花ファンだった人たちは一斉に言うし。
又吉 そうやなあ。その「一緒に」とか「参加する」っていう感覚は、今、大事でしょうね。
(次回1月2日更新分に続く)
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