超モンスター級“痛男”の伊藤誠二郎(岡田将生)と、彼に翻弄(ほんろう)される4人の女性たち、そして彼女たちの恋愛相談を脚本のネタに使おうとしている崖っぷち“毒女”・矢崎莉桜(木村文乃)の姿を通し、女性たちの本音を赤裸々に描いた映画「伊藤くん A to E」。公開を記念したリレー連載第6回は、かつては大ヒットドラマを手掛けた人気脚本家だったものの、今では新作が書けずにいる莉桜役の木村文乃。プライドが高く、腹の底では毒を吐きまくっている“毒女”に挑戦した思いと、女性から見た伊藤くんの“痛男”ぶりについて聞いた。
――莉桜のような“毒女”と言われる女性を演じるのは楽しいですか?
私は曖昧なのが嫌いなタイプなので、莉桜が置かれている、知らず知らずのうちに宙に浮かされている感じは心地良くないです。でも、その心地良くない感じが莉桜を演じる上ではプラスに働いている気がします。それに莉桜は前半の三分の一ぐらいまでは高飛車な女として描かれますが、伊藤くんと対峙するラストシーンに近付くにつれて、地の底に落とされて行きます。普通の人ならここで心が折れそうになると思いますが、莉桜はそれでも踏ん張って気高くいようとする。とても残念な女性ですが、莉桜のそういう人間くさいところは好きですね。
――監督の廣木隆一さんとは、「ソドムの林檎~ロトを殺した娘たち」(WOWOW、2013年)以来、2度目のタッグとなりますね。以前と廣木組の印象は変わりましたか?
「ソドムの林檎―」のときの私は、自分のキャパもないし、技術もない。それにメンタルも弱かったので、自分の中で消化できないものがたくさんあった気がします。そのときの廣木監督は笑わない印象があったんですけど、今回の現場ではすごくニヤニヤされていて。とはいえ、口数が多い方ではないので、私の表現が大きすぎたり、解釈が足りなかったりすると、ちょこっと言葉をかけて、そしてニヤニヤしながら去っていくという感じでした(笑)。あと、廣木さんが恋愛映画を何本も撮られていて、それがどれもヒットしていることについて監督に聞いたら、「60歳のおじいちゃんが撮るから面白いんだよ」と言っていて。前はそういう話すらできなかったから、普通の話ができてうれしかったですし、実は廣木さんは人間が大好きで、ツンデレな方なんだなと初めて知りました(笑)。
――今回の撮影で、さすがは廣木監督と思ったところはありましたか?
廣木さんはご自分の頭の中に気持ちの完成図があって、自分が描きたいことに対する気持ちの流れがしっかりとある方だと思います。なので、その監督の思いをくみ取りながら演じる感じでした。それに廣木さんは原作へのリスペクトがすごくある方なので、台本が原作に忠実なんです。その上で原作ではつかみきれない人間らしい感情が描かれているのは、さすがは廣木監督だと思います。
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