筒井『騙し絵の牙』にはメタフィクション的なところがあるでしょう。僕の『大いなる助走』(1979年単行本刊)は出版業界をネタにした小説で、『巨船ベラス・レトラス』(2007年単行本刊)ではその当時までの状況を新たに総括したんだけれども、「それ以後」の状況の変化が『騙し絵の牙』に書かれている。
塩田 そう言っていただけると本当に嬉しいです。この本は完成まで4年かかっているんですが、その間はとにかく徹底的取材をしたんです。取材方法としては、実際にアポを取ってインタビューすることもありつつ、「『騙し絵の牙』を書いています」ということを一切黙って、出版業界に関するあれこれを相手から聞き出して、それをそのまま書くという非常にひどいこともしています。
筒井 僕の『大いなる助走』の時とおんなじだ。
一同 (笑)
――塩田さんは『騙し絵の牙』を執筆するうえで、『大いなる助走』の存在は意識されましたか?
塩田 これを書く前にもちろん、読み直しましたね。調べてみたら、僕が生まれるちょっと前に発表されているんですよ。
筒井 そうでしたか。
塩田 にもかかわらず今読んでも面白いし、いろいろと衝撃的で……。やはり僕は先生の笑いの部分に影響を受けたんだな、と感じました。僕は高校の時に事務所に入って漫才をしていまして、ずっと台本を書き続けていたんです。舞台の笑いを経験してきたんですが、活字による笑いはまたまったく違う。そこを筒井先生の作品を通して、ひたすら勉強してきたんです。
――30年前に発表された筒井さんの『旅のラゴス』(1986年単行本刊)の文庫版がここ最近、空前の大ヒットとなっています。「本はいつか、いつだって発見され得る」という事実は、出版業界の人々に勇気を与えたと思うのですが、ご自身はどのように分析されてらっしゃいますか?
筒井 あれはねえ、僕も最初はなんで売れ出したのか分からなかった。編集者に調べてもらったら、きっかけはtwitter なんですよ。「スタジオジブリが、『旅のラゴス』をアニメ化したいと言って筒井のところへやって来た。筒井はイヤだと言って断った」っていう、デマがtwitterで広まったんですね。そのデマを、書店でポップに立てた人がいるんだよ。それで売れ始めた。
塩田 えー!!
この記事の関連情報はこちら(WEBサイト ザテレビジョン)