「格好悪いふられ方」「REAL」など数々のヒット曲で日本の音楽シーンを席捲し、現在はニューヨークでジャズアーティストとして活動する大江千里。彼の作る楽曲は多くのクリエイターに影響を与え、2013年に公開された新海誠監督のアニメ映画「言の葉の庭」では、新海監督が大学生のときによく聴いていたという「Rain」がエンディングテーマになっている(秦基博のカバー)。
大江は47歳で渡米し、音大に入学。いくつもの壁にぶつかりながら卒業するまでを綴った前著「9番目の音を探して 47歳からのニューヨークジャズ留学」がロングヒットを続ける中、待望の続編が完成。
新刊「ブルックリンでジャズを耕す 52歳から始めるひとりビジネス」には、音大卒業後、たったひとりNYで起業し、レコード会社社長としてミュージシャンとして、一人の人間として生きる彼の奮闘がぎっしり!(本書には新海監督が帯文を寄せている)
57歳のいま、人生の“chapter2”を突き進む大江千里に話を聞いた。そのインタビューを3回に分けて掲載する。
――前作に続き本作も、大江さんのNYでの日常が目に浮かぶような鮮やかさで描かれていますが、日々の出来事を文章で綴り始めたきっかけは?
「NYで日々暮らしていると日常の中に小さなドラマがいっぱいあって、街をワンブロック歩いているだけで声を出して笑ったり、涙が出てくることに遭遇するんです。50歳をすぎてNYで笑ったり泣いたりしている自分をふと客観的に見たときに、これは備忘録で残さない手はないなと思ったんですよね」
――どんな小さな出来事もキャッチする感性がマックスになっている?
「そうなんです。特に僕の住むブルックリンは下町で賑やかだし、人々がとても気さく。ベビーカーを抱えて階段を降りようとしている人にパッと手を貸してあげたりすると、もうホントに太陽みたいな笑顔で『サンキュ~!』って言われるんです。するとこっちも、『今日はいい日になるかも♪』って嬉しくなる(笑)。そんな日常がいっぱい詰まったブルックリンライフを、音楽を耕す行為を入り口に、僕の選んだ人生やこれから進もうとする未来への思いも含めて書きとめました」
――ご自分にとって文章を書く作業はどんなものですか?
「ポップスで言えば3分間の歌で歌いきるように、とにかくその瞬間瞬間に感じるマックスを自分なりにひとつの形にしています。作業自体はジャズのインプロビゼーション(即興演奏)を始めるような感覚で、最初は鉛筆なめなめ(笑)。徐々に早口になっていって、ガツン!と何かをつかめるような瞬間があったらだんだん着陸に向かって降りていき、きれいな着地をする。できたらすぐ編集の方に送って、アイデアをもらいつつ咀嚼してスリムアップするということの繰り返しです」
――音楽を作ることと文章を書く作業は、そんなに離れたものではないと。
「僕の中ではそうですね」
――とても詩的な回もあれば、ハラハラしたり笑ったり、じーんとくる回も。テーマごとにいろんな味わいがあります。
「テレビ番組も、ジャジャーン!という効果音で始まり事件がてんこ盛りで起承転結がある『土曜ワイド劇場』みたいなものもあれば、ずっと頭を使うクイズ番組、旬の人がひな壇で語るトーク番組などいろいろありますよね。文章もいろいろあってもいいのかな?と思って。たとえば僕がポップス時代に書いていた“ズバッといわない面白さ”が見え隠れする回もあれば、言いたいことをきっちり言う弁論大会みたいな回もある。その中で旅をしていたり、立ち止まって人生を考えたり、英語を練習し直してみたり。モチーフを探る過程はまるでテレビドラマを作っているような感じでした」
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