世界レベルの10代ダンサーが、タップダンスとブレイクダンスで異色のダンスバトルを繰り広げている映像作品が話題を呼んでいる。
本作品は、映像を起点に社会変容を目指すEXIT FILM inc.監督の田村祥宏が、"いじめ"をテーマに賛同したクリエイターと複雑な社会課題のエンターテインメントとしての表現に挑んだ映像作品。楽曲は「Tomorrowland Radio」のホストをつとめるENGMNTが担当し、公式WEBは国内外のアワードを受賞するGarden Eightが制作した。
メインキャストに、国内外で注目を浴びる10代の若手ダンサーのSoumaとShigekixを迎え、迫力のあるダンスによるダイナミックな演出を実現。異色のタッグが生み出す映像のみどころを紹介しよう。
映像は6分間のショートフィルムで、"いじめ"の当事者である男子中学生が、不条理な現実とタップダンスで対峙する姿を描き、苦難におかれた人間の振る舞いや可能性に対する世界観を提示している。
この物語が、いじめの当事者や多様性を阻害される子どもたちの小さな希望となり、社会変容の起点となる価値観を提案するものとなるように願いが込められている映像作品だ。
いじめられている男子中学生を、幼少期からスーパーキッズとしてメディアに取り上げられ、数々のCMや映画に出演する17歳のタップダンサーSouma、いじめのリーダーはRed Bull BC One World Final 2017で史上最年少でTOP4に入賞するなど、弱冠15歳にして既に世界的なブレイクダンスシーンで活躍するShigekixが演じている。
トイレの手洗い場で顔を水に押し付けられたり、先生の前では仲良しそうにしたり、屋上で自殺しようとしたりするなど、いじめの悲惨さやリアルさが描かれ、目を伏せたくなるようなシーンも。しかし、いじめられっ子がタップダンスで自身のアイデンティティをいじめっ子たちにぶつける姿は、何か勇気をくれるような胸にグッとくるものがある。
心を揺さぶられる映像とはこのことをいうのだろう。
本作一番のみどころは、映像のラストシーンで繰り広げられる"Souma VS Shigekix"のダンスバトルだ。
タップダンスとブレイクダンスのバトル自体、ダンスイベントや大会ではなかなか実現しないだけに、かなりレアなバトルシーンになっていることに加え、両者とも世界で活躍するダンサーなので、クオリティも高い。
ダンス動画は定点で取ることが一般的と言われているが、本作品では定点だけでなく、足の動きや顔の表情なども編集で取り入れ、より"いじめ"に対する双方の感情が伝わるように作られている。
まさに、この映像でしか見られないダンスバトルシーンは必見だ。
Shigekixといえば、キッズダンサー時代から日本のトップダンサーとして国内外のダンスバトルで優勝してきた実力者。昨年もブレイクダンス世界4大大会に数えられる"Red Bull BC One World Final 2017"に初出場して、ベスト4に入る実績を残している。
日本のB-BOYとしてこれから世界の大会で結果を残す若手注目株の1人であり、ダンスを世の中にもっと広げるという役目も背負っている存在なのだ。
そんなShigekixは、本作品に出演するにあたり
「今回の作品では、あまり見ることのないタップダンスとブレイキンの組み合わせで踊ることができ、とても貴重な体験をさせてもらいました。いいコラボだったと思います!
今回の作品のテーマである、”いじめ”という社会的問題が実際に存在し続けている事をすごく悲しく思います。周りと違うことは僕からすると個性的で美しく感じるのですが、その違いが虐めの対象になってしまうのはとても辛いです。
「みんな違ってみんな良い」ーよく使われる言葉ですが、本当にそう思います。みんな違うからこそ、お互いを尊敬出来たり、インスピレーションを与え合えたり、人を好きになったりするんだと僕は思います。少しでも今回の作品でなにか気付かされるものがあれば嬉しいです。」
とコメントを残している。
以上からわかるように、映像でやっているような、いじめられっ子に膝蹴りを食らわすようなタイプの人間ではなく、誠実で物事に真剣に取り組むタイプのダンサーであり、こういった演技の仕事にも自身がB-BOYであることのアイデンティティを崩さないように、かつ少しでもブレイクダンスやShigekixというダンサーを知ってもらえればという使命感を持って撮影に挑んでいる。まだ15歳であるが、その姿はプロとしか言いようがない。
実は、Shigekixが演技に挑戦するのはこれが初ではない。彼の出身地である大阪で開催されている"吉本新喜劇"に出演するなど、自身の可能性を広げる活動も行なっている。
ブレイクダンスと吉本新喜劇といえば、"DANCE DELIGHT"にて前人未到の4度の優勝を達成した"MORTAL COMBAT"が「よしもとDANCE新喜劇」の公演を行うなど、有名ダンスチームも舞台に関わるケースが増えている。筆者も有名ダンサーたちにインタビューをしてきたが、多くのダンサーたちが「うまくなりたいなら、いろいろなことに興味を持って挑戦したほうがいい」と口にしていた。
それが舞台なのか、ファッションなのか、映画なのか、まったく違うものなのか、人それぞれであるが、そういった経験が人間としてダンサーとしてさらなる表現を生み出してくれるのではないだろうか。
本記事で紹介した映像作品もそういった背景を踏まえながら、SoumaとShigekixのダンスバトルを見てみると、また違った楽しみ方ができるだろう。
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