──音響監督として苦労されている点、音響監督という仕事の難しさは?
「テレビシリーズの場合、1クール13話で使用する楽曲を最初に全て作曲家の方に発注するんですが、シナリオや絵コンテが数話分しかできていない状態で、全ての曲を発注しないといけない。最終回にはこういう曲が必要だろう、クライマックスではこんな曲があると盛り上がるんじゃないか、悲しい曲はこんなパターンがあった方がいいんじゃないか…と、リストアップして発注するんですね。そのときに、原作がある作品だったら分かりやすいけど、オリジナル作品の場合は、最終話までのシナリオや絵コンテが無い状態で考えていかないといけないので、その辺りが一番気を遣うし、エネルギーを注ぐところですね」
──では、音響監督のお仕事をする上で、最も大事にされていることは?
「一番はやっぱり“芝居”、声優さんの演技ですよね。アニメは、“絵”を演出する作画監督と、僕のような“音”を演出する音響監督がいて、それを総合的に見るのが監督、というのがスタッフワークの基本。ですから僕は、現場ではまず、監督の意向をなるべく具体的に反映できるよう、根本のイメージを役者さんに伝えるようにしています。
アニメというのは2次元の世界ですが、“リアリティー”というものはすごく大事なんですね。ただ、アニメにおけるリアリティーは、それぞれの作品によって違う。声優さんの芝居を日常レベルのリアリティーと一致させようとすると、かえって作品が面白くないものになってしまう気がするんですよ。だから、その作品の世界におけるリアリズムって何なんだろう、ということは常に意識していますね。そこを徹底的に考えることが、見ている人が作品世界に入ってこれるかどうかにつながるのかなと思います。また、それはやはり声優さんの技量にかかってくるところが非常に大きいので、逆に言えば、本当にいい声優…うまい・ヘタじゃなく、作品の世界観に合った芝居ができる声優の方たちに集まってもらえたら、音響監督は必要ないのかもしれません。そうなったら、僕はもう何もしなくてもいいんです(笑)」
──郷田さんが今、「いい声優」だと思う方はいらっしゃいますか?
「最近は、1日にいくつも現場を回るくらい活躍されている声優さんがたくさんいますけど、そういう方々は皆さん本当にすごいですよ。だからこそ忙しいんでしょうし。現場でいろいろな経験を積まれてきている分、自分が何を求められているのか、どういう風にやればいいのかを分かっているんですよね」
──ここ何年かで、声優人気もますます高まって、「声優になりたい」という若い世代も増えてきているようですが。
「声優って、専門職のように見られていますけど、“俳優”と何ら変わらない仕事だと僕は思っていて。若い人たちの中には、『俳優にはなれないけど、声優ならなれると思った』と言う人もたまにいるみたいですけど、それはおそらく間違いで。むしろ“俳優にはなれても、声優にはなれない”というくらい、声優は難しい仕事だと思うんです。僕は俳優の活動もしていますが、どんなに技術を磨いても、存在感で絶対に敵わない方々がいらっしゃるんですね。芝居の良し悪しよりも圧倒的な存在感で周りを凌駕してしまう、そんな俳優さんが、どんな時代にも必ずいる。ところが、声優の世界では、演じる人間の見た目の存在感というのは全く通用しないんです。“味”とか“キャラクター”とは別に、まずしっかりとしたテクニックや表現力が必要で、その上で、その人の人間的魅力も備わっていないといけない。『声優だったら簡単になれる』なんて思われたら、ちょっと違うと思うんですよね…あれ、何でこんな話をしてるんだろ(笑)」
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