──ディレクターとして、力が付いてきたことを実感されたのはいつごろからですか。
「入社10年目くらい、2013、2014年の2年間は、『新堂本兄弟』、『MUSIC FAIR』、『僕らの音楽』と週3本の音楽番組を掛け持ちしていたんですよ。ほかにもアーティストさん側からの依頼で、ライブ中継の演出もたくさんやらせていただいて。当時は年間400曲くらい撮ってたと思います。そんな中で、スタジオ収録とライブ中継では全く撮り方が違うし、同じライブでも、会場が東京ドームかZepp Tokyoかで全然違う。撮影機材から始まって、前もってカット割りするか、アドリブでスイッチングするか、といった撮り方に至るまで、あらゆるパターンをこなした時期でした。その分、普通なら恐くてやらないようなことも試せた、というのはあるかもしれませんね」
──そんな中で、これは渾身の出来だったなと思うものはありますか?
「どれも『FNS歌謡祭』なんですけど、2013年の三谷幸喜さんとAKB48の『Beginner』、2016年の長渕剛さんの『乾杯』、それと、2017年の平井堅さんと平手友梨奈ちゃんの『ノンフィクション』。この3つは特に印象深いですね。どれも賛否両論あったと思うんですけど、私は常々、それこそ賛否両論が巻き起こるくらい、見た人の価値観を揺さぶるものを作りたいと思っていて。音楽番組というのは、アーティストにとってはプロモーションの場でもあるわけですけど、単なるプロモーションビデオを作っても面白くない。そこに私たちが作っているからこその意味を乗せたいと思っています」
──音楽番組以外に、コントバラエティー「ピカルの定理」(2010~2013年)の演出も手掛けていますね。
「『フジ算』(2010年)という、片岡飛鳥総監督の下、若手演出家が新企画をプレゼンする番組がきっかけですね。『関ジャニ∞クロニクル』(2015年~)の福山晋司、『めちゃ×2イケてるッ!』(1996~2018年)の日置祐貴、『痛快TV スカッとジャパン』(2014年~)の木月洋介、という同期のディレクターと一緒に立ち上げた番組です。ずっと音楽畑でやってきた私には、コントを作る会議に出ること自体、とても刺激的で。芸人さんは台本を決め込まれ過ぎることに抵抗があるので、台本ではここまで、リハーサルではここまで、本番で100%の完成度にする、という作り方も、すごく勉強になりました。私が担当していたのは、主にアーティストとのコラボ。渡辺直美ちゃん演じる白鳥美麗というキャラを倖田來未さんのライブに出演させたりして、楽しかったですね」
──バラエティーでは、現在も「KinKi Kidsのブンブブーン」の演出を担当されています。
「音楽番組では制作面の全てを自分がコントロールしたいんですけど、『ブンブブーン』は全く逆で、自分が手を加えない方が絶対に面白くなると思っていて。例えば、中古レコード店のロケでも、一昔前のバラエティーなら、面白いレコードを何枚か棚の目立つ所に仕込んだりしていたんでしょうけど、今のロケバラエティーにおいては、中古レコード店に行くという設定とゲストだけを決めておくのが正解だと思うんです。今は視聴者も目が肥えていて、制作サイドの作為を感じると途端に拒絶されてしまう。隠しても絶対にバレますからね。KinKi Kidsのお二人も、『ゲストのいいところや面白いところを引き出すのは俺たちに任せてよ』というスタンスですし、演者とスタッフの信頼関係の強さも、番組の武器だと思います」
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