「収録は、毎回ほぼ予備知識ゼロで臨んでいます。事前に知っているのは、その人の職業くらい。スタジオで映像を初めて見て、原稿に目を通し、分からないところがあれば、ディレクターから説明を受けて、自分なりに理解をした上で収録を始めるようにしています。
テストのときは、感情が入ってしまうことがよくあるんですよ。でも、ナレーターが感情的になっていたら、視聴者は感動できない。ですから、本番では常に客観的な目線でいることが大切なんです。語り手として、最低限の品位は失わないようにしたいんですよね」
「ナレーションの収録というのは、実は言葉を“削る”ことが求められる作業。言葉で説明しなくても、映像を見ただけで分かることって非常に多いんですね。むしろ、言葉が邪魔に感じられたりもする。もしかすると、私たちの意識のどこかで、視聴者の皆さんに“考えながら見てもらいたい”という気持ちもあるのかもしれません。
ディレクターも作家も、みんなで意見を出し合いながらナレーションを録っていくんですが、最近ではとても貴重な現場だと思いますね。
収録時間は、通常1時間半から2時間くらい。そういえば一度、ナレーション録りだけで8時間かかったことがあったんですよ。
台本と映像がかみ合わなくて、ディレクターから『構成を練り直すのに時間がかかるので、後日録り直しましょう』と言われたんですが、私は『いえいえ、付き合いますよ』と。全然イヤな気持ちはしなかったし、逆に、どんな言葉が出てくるのか楽しみでね。すてきな言葉や、心地良い響きの言葉を語れることこそ、ナレーターの醍醐味(だいごみ)ですから」
窪田等(くぼた・ひとし)=1951年3月27日生まれ、山梨県出身。「情熱大陸」などのドキュメンタリー番組から、「あのニュースで得する人損する人」(日本テレビ系)などのバラエティー番組、CMに至るまで、あらゆるジャンルをこなす名ナレーター。
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