井筒和幸監督がタクシーでほえた! 新作「ヒーローショー」は“思慮分別”がある人」向け!?

2010/05/26 15:51 配信

映画 芸能一般 インタビュー

「見どころはR-15指定なところです(笑)」と笑顔で語る井筒和幸監督

井筒和幸監督の3年ぶりの新作映画「ヒーローショー」が5月29日(土)に公開される。多忙な井筒監督を追い掛けて移動中のタクシーの中にまで押し入り話を聞くと、「現代の青春を見詰めに来てください」と本作について語ってくれた。

本作は吉本興業のお笑いコンビ・ジャルジャルの後藤淳平と福徳秀介、ちすんらが出演した青春バイオレンス映画。ヒーローショーでバイトを始めた気弱な青年・ユウキ(福徳)が、バイト仲間の抗争に巻き込まれ、敵対する自衛隊上がりの青年・勇気(後藤)と、同じ名前であることをきっかけに奇妙な友情でつながり、取り返しのつかない運命をたどっていく。

――今日はいろいろと見どころを伺いたいと思うのですが…。

「吉本のお笑い芸人が出ているからどうせコメディー映画だと思ってたら大間違いだよ(笑)。見どころはコレです、R-15指定なところ(笑)。今までR指定は食らったことがなかったんだけど、今回は食らいました。名誉ある烙印(らくいん)です。確かに、中学生には見せられないですね。思慮分別がある人だけ見に来てください。って、客層狭めてどうするん(笑)」

――最初に、“ヒーローショー”のモチーフはどのように生まれたのでしょうか?

「“ヒーローショー”ってカラオケと並ぶ日本の輸出文化なんですよね。子どもと若い主婦に愛と正義と友情を振りかざして愉快にやってるように見えるけど、実際に中に入ってるやつらは全然そうじゃなくて、孤独だったりする。そういうやつらの中で仲間割れが起こったらどうなるんやろうと思ったのが最初の発想でしたね」

――登場人物たちの抗争が激しくなり、壮絶な暴力描写に至るところは特に怖いですね

「あれはたった一夜のシーンですけど、準備など合わせると撮影に10日間かかっているんですよ。若者の持つ暴力性をリアルに追求するのは、『岸和田少年愚連隊 BOYS BE AMBITIOUS』('96年)や『パッチギ!』('05年)などで今までにもやりましたが、今回は今までとはまったく違う方法でね。今まではエンターテインメントとして、例えば『学生カバンにイカ焼きの鉄板が入ってたら笑えるか』といったように、戯れているようなギャグの世界も織り込んできたけれど、今回はそういう演出は一切なし。極めてリアルに、痛くて怖くてたまらないものにしないといけないという意図でやりました」

――そこまでのものを、今、作ろうと思ったのはなぜなんでしょうか?

「今の社会や時代の無意識が勝手に僕にそうさせたの。若くて思慮のない人間はいっぱいいるけど、そうさせているのは大人社会。そういう大人に向けるメッセージですね。今の大人って若いやつらに『もっと責任を持て』とか『家族を大切にしろ』とか平気で言いながら、どこかの金を盗んだり、不倫相手を殺したりするでしょ。若者に言えた義理かよ? って。若者は暴れたくなるもの。だから若者なんだし、それは社会こそが成熟していないからで。社会のありさまをそのまま映して、自分たちはこんな社会の中で、さて自分は本当は何をしてるのかを自覚してほしかったんです。こんな社会に生かされている、現代の若者の青春を見詰めに来てください」

――ことしで監督生活35年を迎えますが、本作には何か特別な思いもありましたか?

「よくもまあやってこれたなって。商業映画の世界にいて、いい加減な起承転結とか予定調和とかを負わされて映画を作らないといけないこともあったし、いい加減に、そんなものから離れて自由に映画を作ってみたいと思いながらやってきた。だから本作では、『物語の最後にすべてがバカみたいに解決する』みたいなことは絶対やりたくなかったし、自由に作れたと思います」

――主演を務めたジャルジャルの2人はどうでしたか?

「シナリオのキャラクターの通りでした。よく間違われるんですが、彼らのためにシナリオを書いたわけじゃないですからね(笑) だから、あの2人はホントにリアルでハードボイルドな演技をしてます、最近の若い俳優と違って。2人には何回もNGを出したりもしましたが、真に迫る演技をしてくれたと思いますよ」

――2人には今後、どんな活躍を期待したいですか?

「もっと笑わせるコントをし続けてください(笑)。コント、もっと磨きかけられるんとちゃうんかな(笑)」

井筒監督は20日に著書「ガキ以上、愚連隊未満。」(ダイヤモンド社刊)を刊行した。紳助・竜介が出演した'81年の「ガキ帝国」の前夜から、「岸和田少年愚連隊 BOYS BE AMBITIOUS」に至る'96年まで、「映画界の不条理を駆け抜けてきた張本人が書いたんだから、おかしいよ」とのこと。興味がある方はこちらも手に取ってみては。