さすが岡田脚本。失礼ながら“何でもないような日常”を切り取って、見応えある2時間ドラマに仕立ててしまうのだから。
草刈演じる和夫。スーツをパリッと着こなせば某「GQ」の表紙だってバシッと決める草刈を、ここまで“老いぼれ”然とした風貌、佇まいにしただけでなく、おまけに何もできない新入社員にするとは…。
和夫は定年前に総務部長まで務め、何はなくとも仕事、仕事で過ごしてきたいわゆる仕事のムシ。だからこそ、定年後に何をしたら良いのか分からず、暇を持て余す。昔ながらの会社人間、といった役どころだ。
うむ、非常に気持ちが分かる。まさに自分の老後を見ているようだ。
休みの日でも2時間PCに触らないだけで不安になるし、そもそもカレンダーに青や赤は要らない。そんな人間だけに、確かに定年まで会社の犬として働いたとして、定年度どうするかと言われたら本当に自分もこうなるのではないかと。
そういう意味では、この設定は非常に夢と希望がある。
年を取ったっていい、戦力外だっていい、あんなに若くてきれいな上司に使われるのだから。(そこじゃない)
さておき、高畑が草刈に堂々とため口を利くのが新鮮。某朝ドラのように父さん染みた役が非常に似合う高畑だからとてもなじんでいるし成り立っているが、これが吉岡里帆だったら健康で文化的な最低限度の生活も送れているか怪しいところだろう…。もちろん、言いたいだけ。
そして草刈の高畑への「ボス」呼びも新鮮だが、時々刑事ドラマだっけ?ってなるほど、「ボス」のドスの効き方が強め。その一言をとっても新入社員どころか、殿を支える軍師感がすさまじい。
間違ったことを言ったら「わしは決めた!」とばかりに刀で切られそうだ。
そしてこの作品での“敵”のような役どころを担う宮川一朗太。この人のイヤミ上司っぷりは天才的。
そもそも顔が優男かイヤミな上司かどっちかを演じさせなきゃ損をしそうな雰囲気なのだが、今回のイヤミ部長ぶりは板に付き過ぎていて、テレビ越しで殴りたくなるほど。しかし、ここまでいくと逆にすがすがしい!
ほか、“チーム工藤”の部下たちを必要以上に引き立たせないのもうまいし、主婦が好きそうな小瀧望と原田美枝子のお料理ルンルン絡み。2人ともかわい過ぎる。
さらに“必殺仕事人”のような目つきの笹野高史に、誰も人を殺さないし、主人公の恋敵でもない姿が新鮮な丸山智己も。
じめっとした梅雨の季節にもピッタリの痛快なドラマだ。それに大体4月に入社した新入社員が一番会社を辞めたがる、“入社3カ月目”のこの時期にこのドラマをやるというのも意義がある。
年齢やブランクというハンデを乗り越えて頑張る和夫の姿を見れば、自分はいかに恵まれているのか、どれだけ可能性があるのかを再認識させられるからだ。
かくいう筆者も、休日にはPCを開くなと上司にクギを刺されていても、このDVDを見たらキーボードをたたかずにはいられなかったほど刺激を受けた。
でもまあ、ほどほどに上司の言うことは聞いておかないと、キーボードをたたくどころか、自分の肩をたたかれちゃうから気を付けないといけない。
それが会社という文化で生きるための最低限度のマナーというものだろう。
文=人見知りシャイボーイ
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