──ところで、佐野さんは大河ドラマをはじめ、時代劇を数多く手がけられていますね。
やっぱりNHKだと、他局よりは時代劇が多くなりますね。僕自身も好きですし。時代劇というフィルターをはさむことによって、強くて太い物語が描ける気がするんですよ。フィクション性が強いと言いますか、エンターテインメント性が強いと言いますか。
現代劇だと、今を生きる人間の常識で細かいところまでチェックされてしまいますけど、時代劇は“細かいところはひとまず置いておいて、ストーリーを楽しみましょうよ”っていう作り方をしやすい。
「あさが来た」で初めてちょんまげの人たちが登場する“朝ドラ”をやったときは、「本気ですか?」なんて言われましたけど(笑)。僕は「あの時代にもこんな女の子がいましたとさ」っていうところから始まって、身近な時代まで描くほうが多くの人に共感していただけるかなって思ったんです。
──そもそも、ドラマ制作者を志す、きっかけは何だったのでしょうか?
僕は市川森一先生が書かれるドラマが大好きだったんです。あえて1作挙げるなら、「港町純情シネマ」(1980年、TBS系)が猛烈に好きでした。「こんなにすごい物語を書けるんだ!」と思いましたし、「テレビってこういうことができるんだ!」と知った作品です。
僕が2011年に作った「蝶々さん〜最後の武士の娘〜」が、市川先生の遺作ですからね。前編ができ上がって試写会をやった時に、先生が見に来てくださって。「最後に良いものができて、うれしかった」っておっしゃったんです。それから一瞬でグッと、握手されました。僕は先生が深刻なご病気だなんて、知らなかったですから…。ご一緒できたのは、本当にうれしかったです。
──「蝶々さん」の主演の宮崎あおいさんとは、大河ドラマ「篤姫」(2008年、NHK総合ほか)以降、数々の作品でご縁が続いていますね。
僕にとっては、折々の大切な作品で出演していただいている、女神みたいな人ですね。「篤姫」、「蝶々さん〜最後の武士の娘〜」、「あさが来た」、「眩(くらら)〜北斎の娘〜」(2017年)と、“勝負だな”っていう作品のとき、気が付いたら宮崎さんとご一緒しています(笑)。
これはNHKスタイルなのかも知れませんが、キャスティングより先に物語を作るんです。だから宮崎さんありきで作品を企画しているわけではないのですが、宮崎さんなら期待に応えてくれるだろうっていう、信頼をしていますね。
──「あさが来た」はディーン・フジオカさんを起用されたことも話題になりましたが、日ごろから新しい役者さんを見つけるアンテナを張られているのでしょうか。
“朝ドラ”や大河などの長いドラマを作るときには1年以上前から頭の中でイメージを組み立てているんですけど、そういう時期には意識的に、映画や舞台、ドラマといろんなものを見るようにしていますね。そうすると日ごろとは違う感性が働いて、ビビッと反応する。
「あさが来た」は大阪商人の中に一人だけ薩摩武士が入ってくる話で、ほかの役者さんとは違うタイプの人を探してたんです。初めは能や狂言の世界からどなたかをと考えていたんですが、ちょっと違うかなと思って。“海外で活躍されている俳優さんにしよう”と思ったら、ディーンさんしか考えられなかった、という感じです。
「篤姫」も小松帯刀という役を前面に立てようと考えていたときに、たまたま映画で瑛太さんを見て、“この人しかいない!”と思いました。
偶然の出会いも大きいし、いつも「ディーンさんみたいな人いないかな」なんて、探しているわけではないですよ(笑)。
──昨年は「植木等とのぼせもん」(NHK総合)も手掛けられましたね。
植木等さんのお父さんの話は昔からやりたかったんですけど、“どうやったらいいんだろう”って、20年くらい考えていたんですよ。そんな中、「陽炎の辻 完結編」で初めて小松政夫さんとお会いすることになって。それがきっかけで小松さんの自伝「のぼせもんやけん」を読んだら、めちゃめちゃ面白て、“これをドラマにすればいいんじゃん!”って気が付いた感じですね。
植木さんのお父さんの役は、ずっとご一緒したかった伊東四朗さんにお願いしました。そして、ストーリーテラー役の小松さんが同じスタジオにいるわけじゃないですか! これはもうどうしても、“お二人の電線音頭が見たい!”って思ってしまって(笑)。
伊東さんに「僕は見たいです。視聴者の皆さんも見たいはずです」ってお願いしたら、「いいよ。その代わり、テストなしの本番1回しかやらないから」と。ピンと張り詰めた緊張感のなかで収録した、現時点では最新バージョンの電線音頭です!(笑) 去年で一番うれしかった出来事でした。
──最後に、佐野さんがこれからのテレビ界に対して思われることを教えてください。
ハイビジョンから4Kや8Kの時代になってきましたけど、「僕らがやるべきことは一緒だよ」っていうことですね。テクノロジーが変わっても、物語を作って届けたいという思いは変わらないですから。そのあたりは、これからテレビの世界に飛び込んでくる人たちにも、忘れないでいてほしいですね。
人と人が出会って関係が紡がれて、擦れ合ったら音がするわけで。その音を捕まえて人に感動を伝えることが、ドラマなんだと思います。
取材・文=青木孝司
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