ハロー!プロジェクト(ハロプロ)の多くの舞台で歌唱指導に携わる新良エツ子へのインタビュー後編。
【舞台歌唱指導・新良エツ子、モーニング娘。との出会いで知った“歌・ダンス+ルックス”を持つアイドルのポテンシャル より続く】
アイドルの舞台は色眼鏡で見られがちだが、彼女たちの芝居・歌唱に対する姿勢に妥協はない。舞台に立ったことを機に演技の道に進んだメンバーもおり、女優・真野恵里菜がハロプロ出身なのは広く知られているところだ。スマイレージ(現アンジュルム)の田村芽実もハロプロ卒業後、「minako-太陽になった歌姫」(2017年)で主演・本田美奈子. 役を掴み、演劇・歌劇への道を進んでいる。
インタビュー後編では、アイドルへのミュージカル歌唱指導の方針、特に印象深いメンバーの芝居・音楽へのセンスを聞くことができた。
――ハロプロに限らず、新良さんはアイドルによるミュージカルに対して、どのような方針で歌唱指導をされていますか?
ポップスを教えるのとは違って、役に合った指導をするというところでしょうか。この役はそんな風には歌わないとか、芝居が上手く流れるようにするのが大事で、一番は役の個性を見てですね。歌と芝居で、彼女たちのアイドル性が役に生きるようにというのが私の方針です。
――役ではなく、その子の個性に合わせることはしないんですか?
個性というより、できないことはやらせないというのはあります。もちろん、できそうな子には教えますが、この子はこれ以上トップが出ないと思ったら歌割を変えて、場合によっては聴き苦しくならないように、メロディの調整をお願いすることもあります。
あとは、自分の鼓動を感じることを大切にさせています。BPM(Beats Per Minute)と言って曲の速度を表す単位があって、BPM200だったらすごく速くて、60だったら緩やかな曲調になります。BPMに合わせられるかどうかって、その子の生きているリズムだと思うんです。おっとりした子は速いBPMの時には遅れても、60の曲ではすごく綺麗に合わせられる。逆にいつもセカセカした子は遅い曲だと手持ち無沙汰で上手くできない、みたいな。
それを、私は心臓の鼓動だと表現して教えています。自分の脈拍や鼓動を曲のBPMに合わせなさいという教え方ですね。自分の生きているテンポを曲に合わせなさい、自分の鼓動までコントロールして歌えるようにしなさい、と。実際、そんなことはできませんけど、喉ではなく、心で意識することで全く変わってくるものなんです。
――ミュージカルのリズムは普段の歌と違いますから、新良さんにとっても指導の苦労は多いと思います。
三拍子が一番大変ですね。例えばハロプロの曲は全部と言っていいくらい8カウントなので、ミュージカルの三拍子に苦労するんですよ。今までだと「我らジャンヌ」(Berryz工房主演・2013年)が一番大変だったかな。みんな小さい頃からハロプロに入って、ずうっとつんく♂さんの16ビートを刻んできたわけじゃないですか。生まれて初めて取る三拍子、みたいな感じでした。
でも、他のアイドルたちもなぜか三拍子は苦手なんですよね。「花のワルツ」が三拍子なんですけど、聞くと「知らない」と言うんです。現代音楽のカリキュラムには三拍子がないのかなって思うくらいです。
そう言えば、「リリウム」(「LILIUM-リリウム 少女純潔歌劇-」モーニング娘。鞘師里保&スマイレージ和田彩花主演・2014年)に変わった拍子の曲があって大変でした。「或る庭師の物語」がそうで、改めて聴いてもらえれば分かると思うんですが、「これ、どうやって取るの?」というような、上手い人でも難しい曲だったんですよね。演出家の末満(健一)さんがそういう四拍子から三拍子、二拍子、五拍子みたいな変拍子の曲が好きなので。
でも、舞台を続けていくならそういう曲にぶつかることもあるだろうし、外の舞台に出ていった時、「何拍でも取れます」となっていると強いです。10代のうちにできるようになっておくのが理想です。
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