2018年夏クールのドラマを対象にした「週刊ザテレビジョン 第98回ドラマアカデミー賞」。脚本賞は「義母と娘のブルース」(TBS系)にて、血のつながらない親子の深い絆を描いた森下佳子氏が受賞した。
――脚本賞の受賞は「世界の中心で、愛を叫ぶ」(2004年)「JIN-仁-」(2009年)「JIN-仁-完結編」(2011年)「天皇の料理番」(2015年)(いずれもTBS系)に続いて5回目となります。受賞の感想を聞かせてください。
そんなにたくさんいただいてありがとうございます。『ぎぼむす』は決して派手ではないホームドラマでしたから、この賞をいただけたのはとてもうれしいです。とにかく合格点を出せるように頑張ろうという気持ちでした。
――原作の「義母と娘のブルース」はどのような点を面白いと思われたのですか。
ほのぼのとした4コマ漫画として面白く読んでいたら、途中でお父さんが病気だとわかり、ページをめくったら亡くなっていて、しかも前のシーンとはギャグでつながっている。原作には、そんな静かな展開やすごくいいセリフが盛り込まれていました。また、初対面で名刺を差し出す様など、映像にしたときにそのまま使ってもキレのある表現が出来ると確信しました。
――そんな原作をどのように脚本にしていったのでしょうか?
基本はコミカルな原作の魅力を最大限に活かしたいと思いました。逆にドラマオリジナルで加えさせてもらったところは、“奇跡”という要素。良一は小さな奇跡を探すのがうまい人で、そこがすてきだと思ってもらいたかったんですね。実は私が使っている“ほぼ日手帳”の欄外に「今日のミラクル」というコーナーがあり、それが発想のきっかけになりました。
――最終回のラストシーン、亜希子は娘のみゆきと離れて大阪へ引っ越しますが、新幹線のチケットに「東京―大阪」ではなく「東京―東京」とある。その“奇跡”が視聴者の間でも話題になりました。
あの場面は「意味がわからなかった」とも言われました(笑)。あんなチケットが存在するとしたら、盛大なミスプリントですよね。それをミスだと思うか奇跡だと思うかは、その人次第。亜希子は「大阪に行くな」という啓示だと思ったかもしれませんし、ひどい間違いだと思って怒ったかもしれない。いずれにせよ、ちょっとシュールな終わり方になりました。
――原作ではみゆきが結婚し、亜希子が老いるところも描かれていますが、みゆきが大学に入るところで終わらせたのはなぜですか?
原作に亜希子が「あなたを育てたのは私のエゴだ」と告白し、みゆきが「そう言うのを世間じゃ愛って言うんだよ」と言う素晴らしいセリフがあります。最終回でそこをぜったいに活かそうと決め、そのためにオリジナルの展開で亜希子とみゆきの別れを描きました。このドラマはどんな話だったんだろうと考えたときに、「そういうのを愛と言う」というセリフが出てきたわけですし、亜希子が「あなたみたいないい子は…」と思えたのはとてもすてき、亜希子には「子育て成功したね」と言ってあげたいです。
――主演の綾瀬はるかさんの演技はいかがでしたか?
綾瀬さんはこれまでのキャリアで培ったものすべてを見せてくれて、本当にすばらしかった。最後の最後まで座長として現場を盛り上げてくれて、まるで綾瀬さんと亜希子がシンクロしているような頼もしさを感じました。
――森下さんは大河ドラマ「おんな城主 直虎」(2017年NHK総合ほか)でも、血のつながらない親子関係を描いていましたが、このテーマにこだわりがあるのでしょうか?
私には実の娘がいますが、亜希子のように血のつながらない子供を育てるのはすごい!とあこがれに似た気持ちを抱きます。そんな血縁によらない親子関係には愛情の本質みたいなものが見えるのではないかと…。それが義理の父と息子でもいいわけで・・・。
そう考えると、次は「義父と息子のブルース」というドラマを書いてみたいですね(笑)。
取材・文=小田慶子
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