人には見せられない一面をのぞき見る珠玉の邦画作品<ミヤザキタケル 映画連載 第1回 >

2019/03/29 12:20 配信

映画

『娼年[R15+指定相当版]』(C)石田衣良/集英社 2017映画『娼年』製作委員会


ミヤザキタケルの「シネマ・マリアージュ」


ミヤザキタケルの「シネマ・マリアージュ」


■文=ミヤザキ・タケル:長野県出身。1986年生まれ。映画アドバイザーとして、映画サイトへの寄稿・ラジオ・web番組・イベントなどに多数出演。『GO』『ファイト・クラブ』『男はつらいよ』とウディ・アレン作品がバイブル。

第1回 人には見せられない一面をのぞき見る珠玉の邦画作品


皆さま、初めまして。各種SNSやWebメディアでの映画紹介、イベントやラジオ出演などを通して、ひとりでも多くの方と良き映画との懸け橋となるべく活動しております映画アドバイザーのミヤザキタケルと申します。

この『シネマ・マリアージュ』のコーナーでは、WOWOWの放送作品の中からオススメの作品を1本ご紹介させていただくのと同時に、<その映画に合う>作品をもう1本ご紹介! つまり<これを観てから、これを観るとさらに楽しめる>というコンセプトのもと、組み合わせの良い2作品を皆さまにお届けさせていただきます。

初回の今回は、ともに小説が原作であり、松坂桃李出演作品でもあり、誰もがその心に宿しているにもかかわらず偽ったり隠してしまいがちな想いを真摯に描いた『娼年』と『彼女がその名を知らない鳥たち』をマリアージュ。

『娼年[R15+指定相当版]』('18)


『娼年[R15+指定相当版]』(C)石田衣良/集英社 2017映画『娼年』製作委員会


2018年、まさかの応援上映まで開催されたこの作品をあなたはご存じだろうか。

原作は『池袋ウエストゲートパーク』などで知られる石田衣良、監督は岸田國士戯曲賞受賞など演劇界でその名をとどろかせ、『愛の渦』('14)、『何者』('16)、『裏切りの街』('16)など近年では映画界においてもその地位を確立させた鬼才・三浦大輔。全公演即ソールドアウトになった2016年の舞台版を経ての映画化であり、舞台版同様に三浦大輔×松坂桃李の最強タッグで極上の人間ドラマを描き出す。

性描写がガッツリあるため、人によってはハードルが高く感じられるかもしれません。が、もしもR18(WOWOWでの放送は[R15+指定相当版])だから、卑猥なテーマだからという理由だけで観るのを避けてしまっているのであれば、どうか考えを改めてみてほしい。作品の外身から読み取れる情報に惑わされてしまいがちだが、中身は純粋に人と人との関わりを描く。娼夫になった青年と女性たちとのSEXを通じて、あなたの心に潜む弱さや欲望さえも浮き彫りにされてしまうことだろう。

人として生きていく限り、恋愛も性欲もSEXも避けては通れない道。できるできないは別にしても、それらに関する葛藤や衝動はどこまで行っても付きまとう。根源的な人の願いとは、言葉通り素っ裸になった時にこそあらわになるものではないだろうか。人それぞれに個性があって性格が異なるように、性的嗜好もまた人それぞれ。性的嗜好がアブノーマルであればあるほどに、相手が大切な人であればあるほどに、その欲望をさらけ出すのに躊躇する。その状態から脱することができなければ、心も体も永久に満たされない。

だからこそ、相手の欲望を金を対価に受け止める娼夫の仕事が存在する。相手の欲望をくみ取ることができなければ、相手の弱さを包み込めるだけの度量がなければ務まらない。もちろん大多数の方たちは娼夫(婦)じゃないのだから、不特定多数を相手にそうできる必要なんてない。たったひとり、目の前にいる大切な人の想いを受け止められれば良い。けれど、それがなかなかに難しく、独り善がりな想いを一方的に押し付け合うか隠してしまいがち。

あなたの現状や抱えている問題は分からないが、パートナーの心と体に潜む欲望をあなたは理解できているだろうか。あなた自身の心と体に潜む欲望を、パートナーは理解できているだろうか。

金を払い払われて行なわれるSEXだけど、劇中で行なわれるSEXは観る者に確かなつながりを感じさせてくれる。あんなふうにSEXができたのなら素敵だなと、相手にすべてをさらけ出せたのなら最高だなと思えてしまう。互いに"ありのまま"でいられることの価値が、そういったSEXへとたどり着くためのヒントが、この作品には詰まっている。

誰もが確実に心に宿してはいるものの、声を大にしては話さない。いや、話せない。そんな性やSEXと真摯に向き合い、他者と通じ合うことの難しさや喜びをも示してくれるこの作品が、どうかあなたにとって大切な一本になることを願います。

『彼女がその名を知らない鳥たち』('17)


『彼女がその名を知らない鳥たち』(C)2017 映画「彼女がその名を知らない鳥たち」製作委員会


原作は著書である『ユリゴコロ』も映画化された"イヤミスの女王"沼田まほかる、監督は若松孝二を師に持ち、『凶悪』('13)、『日本で一番悪い奴ら』('16)、『孤狼の血』('18)など、触れればけがをしてしまいそうなほどに鋭くとがった作品を手掛け続ける白石和彌。そんな白石監督作品の中では珍しいラブストーリーであるのだが、一癖も二癖もある身勝手な男女たちのいびつな恋愛模様にあなたは一体何を思うだろう。

『娼年』によって心にまとわり付く余計な見えや飾りを引き剝がされた後に観る本作だからこそ、容易に分かり合うことのできない人々の姿が、独り善がりな想いの押し付け合いが、相手を思いやらないSEXのむなしさが、たったひとりの大切な人を受け止めようとする愛のはかなさが、より鮮明に心に刻まれることだろう。また、『娼年』においては美しささえ感じられた松坂桃李のSEXシーンが、本作においてはこれっぽっちも魅力的に感じられない点も要チェック(笑)。

公開当時「共感度ゼロの最低な女と男」とうたっていた本作であるが、そんなことは決してない。観る側は共感できないのではなく、共感したくないだけ。でも、『娼年』の影響で心が無防備になっている状態では、他人事だと割り切ることができず認めざるを得なくなっていく。

自分自身にも宿る嫌な部分を突き付けられ、ひどく胸が締め付けられてしまう。誰にだって人には知られたくないひきょうで、残忍で、冷酷な裏の一面がある。時と場合を考えて、ぶつけても大丈夫な相手を見定めて、うまく発散しながら生きている。

『彼女がその名を知らない鳥たち』(C)2017 映画「彼女がその名を知らない鳥たち」製作委員会


だが、時にその矛先を間違えてしまう。本当は大切な人のはずなのに、一緒にいるのが当たり前と化してしまえば傲慢な部分が顔を出す。そんな親しい間柄だからこそ生じてしまう不和の数々を、誰にでも起こり得る問題でありながらも誰にも打ち明けられない葛藤を、極めて身近に感じられる者たちの嫌な面を通してこの作品は映し出す。

登場人物たちがたどり着く境地、それは愛か狂気か。狂気であったとしても、その根底には愛が宿っており、愛なくしてはたどり着けない狂気であると思う。僕たちは、あそこまで誰かを愛することができるだろうか。

娼夫という非現実の世界観によって解きほぐされた心は、直視するには勇気の要る現実に近しい世界観をきっと受け止められる。本来であればのぞき見することなど許されない2つの世界観・人間模様に触れることで、あなたの人生により良い彩りを与えてくれる珠玉の2作品になると思います。

ぜひご覧ください。

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