――小沢さんにとってのこの映画の名セリフはどれでしょう?
小沢「ベイビーは寡黙だから、名セリフっていうのも難しいんだけど、好きな子っていうか、気になる女の子ができるじゃない。ベイビーが常連のレストランで働き始めた子(リリー・ジェームズ)で、彼女が明るく『ご注文は?』って訊いてくるんだけど、ベイビーは『君の名前』って言う。そうしたら『それは無料ね』って返してくるんだよね。
――2人が再会するシーンですよね。最初にレストランで出会った時、2人は打ち解けるけど、ベイビーは彼女の名前すら聞けなくて、これが2度目のチャンス。しかもベイビーは『ご注文は?』って訊かれた後、音楽を聴いていた耳のイヤホンをちょっとカッコつけながら外して、ゆっくりと彼女を見てセリフを言ってます。それにしても粋な返しですよね。
小沢「うん。いつもこういう返しができる人間でいたい、って思ってる。子供の頃から(寺沢武一の)『COBRA(コブラ)』っていうマンガが好きで、『COBRA(コブラ)』が俺の思想を決定づけたんだよね。あるエピソードで1週間コブラを待っていたという女の子から「助けて!」って言われるの。普通はまず「何があった?」って訊くと思うんだけど、コブラは「オレの助け...? 残念ながら今は休業中でね。もっとも背中のファスナーをさげたいっていうならいくらでも手をかすぜ」みたいな軽口を言うのね。『COBRA(コブラ)』ってそういう会話の宝庫なんだ」
――『ベイビー・ドライバー』にも『COBRA(コブラ)』を感じたってことですか?
小沢「『COBRA(コブラ)』のカッコよさと『ベイビー・ドライバー』のカッコよさは違うんだけどさ。でも、こういう会話って洋画のオシャレさだと思うの。もし俺が日本のレストランで同じことをやったら『うわっ』てなるでしょ。店員さんが絶対に『うわっ』てなるでしょ(笑)。洋画を観ててよく思うのは『あっちではこれが普通なんだろうか?』って疑問なんだけど、でも、俺はこういう会話が普通である世界にいたいって、いつだって思ってる。こういうこと言うと『カッコつけてんじゃん』って言われるんだけど、俺に言わせれば、そういうヤツらのほうがカッコつけてる。『それサブいね』って言われることから逃げてるわけだから、それってホントはカッコつけてんじゃん。だから、躊躇わずにカッコつけるセリフを言えるヤツのほうが、実はカッコつけてない。だからこの映画はカッコいいって、素直に言えるんだよ」
――とはいえ、カッコいい気の利いたセリフをどうしても思いつかない人も世の中には大勢いると思うんですが。
小沢「それはね、松田優作さんが昔インタビューで言ってた言葉があって。その当時は日本映画が下火で洋画のほうがずっと凄かったんだけど、優作さんは『結局、映画人じゃないヤツが映画撮っても映画にならねえんだよ』的なことを言ったの。俺、結構これって何に対しても当てはまるなと思ってて、例えば英語をいくら勉強しても、大学出た日本人より、小学校しか出てないアメリカ人のほうが英語うまいじゃん。根っこからそっちの人たちには勝てない。だからどっちが偉いっていうことでもないし、別にカッコいい言葉が出てこなくてもいいんだけど、人って自分がやれることをやるべきだと思ってるんだよね。たまたま俺は、そういう風に生まれついたから、やっぱりカッコいい言葉は出ちゃうよね。あと、10代にこの映画を観ていたかったとは思った。どちらかというと今の自分は、ケヴィン・スペイシーが演じる組織のボスが若い2人を見て『昔を思い出した』っていうセリフのほうに近いから」
小沢「ただ『ベイビー・ドライバー』ってすごく面白いし、何度でも観られる映画なんだけど、ここがああだ、あれがこうだって理屈を言うのは向いてないような気がする。だって"ベイビー"は止まってねえんだから、俺らが止めちゃいけないよ!」
――今、すごくカッコいいこと言いましたね!
小沢「うん、ごめんね。俺、そういう血なの(笑)」
取材・文=村山章
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