――初演「春の陣」からちょうど1年がたちます。振り返って、印象に残っていることはありますか?
彦摩呂:思い出というより現在進行形のことで、「信長」(「信長の野望・大志」)は年齢差のある40人以上の大所帯だから、まるで大家族の中にいる感覚。他の現場からここに来ると、帰ってきたという気分になるんですわ。
田中れいな:分かります。私も「あと少しで『信長』だよ」と言われたときの安心感はすごいです。演じてきた作品の中では一番難しくて、毎回頭を抱えるんですけど、早く戻っていきたいと思う現場なんですよ。
それこそ、かいちゃん(織田信長役・鶏冠井孝介)なんて本当のお兄ちゃんみたいだし。彦摩呂さんは面白くて優しいし。「春の陣」のときは、「彦摩呂さん来た! あいさつ行かんと!!」って、めっちゃ緊張してたんですけどね(笑)。
――もしかして、2011年の「ドラGO!」(テレビ東京系)以来の共演ですか?
田中:そうなんですよ。それをどうやって切り出そうか、家ですごく考えていたんです。「今日言おう、今日こそ言おう」って。
彦摩呂:ある日、「そうやったよねー」って話になってな(笑)。
――覚えていたんですね。
田中:うれしかったです。彦摩呂さんは数え切れないくらいの旅番組に出られているから、もう忘れられているかもと思ってました。
彦摩呂:「ドラGO!」のときは、お人形さんみたいで、ちょこんと助手席に乗っててね。明るくてかわいくて、アイドルってこういう子やなって、つくづく思いましたよ。ストラップに付けて帰ろうかと思ったもん。
――再会しての印象はどうでしたか?
彦摩呂:女優力がとんでもなかったですわ。最初は僕らも手探りだったんですよ。イメージがまだできてない状態から始まって、でも、立ち稽古に入り出すとれいなちゃんはどんどん市になっていってね。
今回の「夢幻」に至るまで、役に対する思いをぐっと深めてきているのを僕は間近で見てきています。
歌のシーンももちろんね。彼女のライブも見に行かせてもらったんですけど、そういうホームでの歌い方とはまったく違うもので、ときに子守歌のように、ときに風が吹くように、歌詞を紡ぐ感情の入れ方に鳥肌が立ちました。
時代劇の中で彼女だけが歌を歌うって、下手をしたら空気を壊しますやん。ところが、劇の雰囲気を倍増させるような歌い方をするんですよ。初演のときはホンマにびっくりしました。
田中:雰囲気を壊すという見方もあったんですね。それは考えたことがなかったです。私としては、ミュージカルではないからセリフとして歌うのはおかしいし、かと言ってライブのように歌うのはもっとおかしいし、その狭間のどの辺りを狙えばいいのかは悩んでいたんです。
それを今、彦摩呂さんから雰囲気を倍増させるという言葉を頂けて、すごくうれしいです。
彦摩呂:歌う意味をしっかり付けられる子なんですよ。夫やわが子を想う気持ち、戦国のやるせない気持ちをそれぞれの歌い方で表現していて、それは「信長」の舞台でしか聴けない、市である田中れいなの歌です。あの悪いお姫さんの歌とも全く違うもん。あれの歌もすごかったですわ。
――ミュージカル「悪ノ娘」のリリアンヌですね(笑)。
田中:「悪ノ娘」はあの役での歌だし、ミュージカルなので全然違いますね(笑)。
彦摩呂:「信長」もそうだし、「悪ノ娘」もそうだし、この子の歌はすごいですよ。芝居は役によって変えられますけど、歌は自分に引き戻しそうなものじゃないですか。それを役として歌い切っているから、役も輝いてくるんです。
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