F1ワールド・チャンピオンに3度輝いたニキ・ラウダの訃報に接し、『ラッシュ/プライドと友情』(’13)にも描かれた奇跡の復活を思い出す。1976年、瀕死の重傷を負ったサーキットでの事故からわずか6週間でレースに戻り、その年の最終戦でライバルのジェームス・ハントと世界王者の座を争ったのだ。ドライビングが冷静で私生活も真面目なラウダに対し、ハントはプレイボーイで走りは野性的。2人のキャラクターが対照的だったことが、ライバル関係を鮮烈なものにした。
そんな名勝負の裏にあるドラマが映画では度々描かれる。テニスの世界にも、コート上での振る舞いが真逆のトップ選手同士が優勝を懸けて死闘を繰り広げた勝負がある。
“アイス・マン”ビヨン・ボルグと“悪童”ジョン・マッケンローが対戦した1980年のウィンブルドン男子シングルス決勝だ。映画『ボルグ/マッケンロー 氷の男と炎の男』(’17)は、その決勝戦を物語のクライマックスに据え、そこに至るまでのそれぞれの軌跡を映し出している。
’80年当時、ウィンブルドン選手権4連覇中の24歳の美青年ボルグ(スウェーデン出身の人気俳優スベリル・グドナソンがボルグのカリスマ的な雰囲気を再現している)は、世間が「5連覇なるか?」と騒ぎ立てる中でも超然としている。しかし陰では敗北の恐怖や孤独感と必死で戦っていたことが、狂気に取り憑かれたように何事にも験を担ぐ姿や、死を連想させる心象風景から伝わってくる。
さらに、元々は短気な性格でジュニア時代は試合中にキレることも多く、根底の部分ではマッケンローとさほど変わらないことも映画では明らかにされる。一方、マッケンローの生い立ちや心情はそれほど丁寧に掘り下げられていないが、審判に暴言を吐くなどの悪態(シャイア・ラブーフの芝居がとても自然!)の裏には、勝利することで厳しい父親に認められたいとの思いがあったことが分かり、悪童がいじらしく思えてくるのだ。
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