最後に、世間を騒がせたスポーツ界の出来事として、’94年のリレハンメル五輪選考会会場で起きたナンシー・ケリガン襲撃事件は外せない。『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』(’17)は、その首謀者と疑われたライバルの女子フィギュアスケート選手トーニャ・ハーディングの半生を追った伝記映画である。
4歳でスケートを始めたトーニャはすぐに才能を発揮するが、教養も愛情もない毒母に罵倒され、若くして結婚した夫からはDVを受け、暮らしは常に貧しく、不憫で見ていられない。それなのに、トーニャ役のマーゴット・ロビーが第4の壁を越えて観客に話しかけてくる奇をてらった語り口のおかげで、作品はなんとなくコミカルな味わいになっている。
肝心の“彼女は事件に関与していたのか否か”だが、この映画はトーニャ本人や逮捕された元夫、実行犯などの食い違う証言に基づいて製作されたものであるせいか、真実はいまだ藪の中である。
政治やビジネスの世界よりも実力がシビアに問われるスポーツの世界には、常人の想像を超える壮絶なドラマがあり、時にはとんでもないスキャンダルが巻き起こる。スポーツ中継を見ているだけでは知りようのない驚きや興奮を味わえるのはもちろんだが、たまには困惑させられるのも、実録スポーツ映画の面白いところかもしれない。
情報誌の映画ページの編集を経てフリーライターに。雑誌、WEB等で作品紹介やインタビュー記事を執筆中。ドッキリ系ショック演出が苦手なのにスリラー好き。
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