もうひとつ、大きな見どころとしては、「ああ、グウィネス・パルトロウって、昔はかわいかったんだなあ」ということがあるだろう。最近のグウィネス・パルトロウしか私は知らなかったのだが、若い時はこんな感じだったのか、と驚いた。豊かなブロンドをかわいらしく結って体をコルセットで締め上げているところも、男装して髭を付けながら動き回るところも、キュートだ。
そう、お嬢様であるヒロインが男装して男社会の中で俳優として働く、ということがこの物語のキモになっている。この頃のハリウッド映画はフェミニズム・ブームで、大抵の映画で、かっこいいヒロインを描いたり、ジェンダーに関して慎重になったり、多様性を肯定するために「白人」「男性」をメインにしないように人物設定を行ったりしている。『恋におちたシェイクスピア』は20年前の映画なのでそこまで徹底していないのだが、女性性への配慮がちょっと垣間見える。
特に、ジュディ・デンチ演じるエリザベス女王の風格、男性たちの中でリーダーシップを長年取ってきたことの苦労やプライドを感じさせるシーンが随所にあって、この縁取りが映画を一段高めている。
恋愛映画だが、芝居を作り上げるという仕事をカップルで成功させるストーリー展開だ。そのため、2人が添い遂げるかどうかがあまり気にならない。結婚だとか破談だとかがどうでもいい。仕事を一緒にして、力を合わせて成功させたのなら、それだけでいいじゃないか、という感じがする。ベッド・シーン以上に、脚本家と主演俳優として語り合うシーンはロマンティックだ。「ロミオとジュリエット」がいい芝居になったのなら、それ以外はすべてくだらないことだ。一瞬でも仕事の恍惚感を共有できたのなら、ハッピーエンドだよな、と思った。
作家。1978年生まれ。2004年にデビュー。著書に、小説「趣味で腹いっぱい」、エッセイ「文豪お墓まいり記」など。目標は「誰にでもわかる言葉で、誰にも書けない文章を書きたい」。
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