『HOUSE/ハウス』から『この空の花 長岡花火物語』『花筐/HANAGATAMI』まで! “A MOVIE”の素晴らしき大林宣彦ワールドへの招待<ザテレビジョンシネマ部コラム>

2019/07/30 11:16 配信

映画

『花筐/HANAGATAMI』(C)唐津映画製作委員会/PSC 2017


そして2017年、79歳の大林監督が作り上げた渾身の大作『花筐/HANAGATAMI』(8月5日夜7:00 WOWOWシネマ)は“幻のデビュー作”として企画されていた作品。実は『HOUSE/ハウス』の前に、壇一雄の小説『花筐』を原作にして脚本家、桂千穂との共作で脚本を書き上げていた。大林監督はこれでデビューを飾りたかったのだが、当時は叶わず、いよいよ40年の時を経て映画化の運びとなった。

しかし我々ファンの立場から言えば、今この形で『花筐/HANAGATAMI』を体験できる運命に感謝したい。とにかく圧巻の2時間50分…茫然自失となる破格の映画だ。リミッターを完全解除したイマジネーションの洪水。巨匠と呼ばれるベテランが放つ初期衝動と執念のエネルギー。

めくるめく華麗な映像絵巻と、胸を締め付けるような詩情をたたえたタッチで、戦争という時代の残酷にぶち当たり、まもなく死んでいくしかなかった若者たちの青春群像をハイボルテージで描き切る。無双のテクニックを持つ“映像の魔術師”が、まるで子どもに戻ったような自由奔放さでスクリーンというキャンバスを埋めていく。いわば岡本太郎やパブロ・ピカソのような、過激な円熟に達した芸術の爆発。

『この空の花 長岡花火物語』(C)「長岡映画」製作委員会・PSC All rights reserved


『野のなななのか』 (C)2014 芦別映画製作委員会/PSC


今回放送される『この空の花 長岡花火物語(2012)』(8月8日夜6:15 WOWOWシネマ)、『野のなななのか(2014)』(8月9日夜6:00 WOWOWシネマ)は、『花筐/HANAGATAMI』と合わせて“戦争3部作”と呼ばれる。これらは今の時代への危機感をつのらせた大林監督の反戦と平和のメッセージが熱量高く詰まっており、特に3.11――東日本大震災の悲劇に触発されて撮られた『この空の花 長岡花火物語』は、先ほど引き合いに出したパブロ・ピカソ作の絵画「ゲルニカ」をも連想させるような迫力で、必見と言うしかない。

『瞳の中の訪問者』 (C)1977 東宝


常に“個人”と“普遍”を同時に見据え、ピュアな映画小僧の姿勢を貫いてきた大林宣彦。天才外科医ブラック・ジャックを宍戸錠が演じた『瞳の中の訪問者(1977)』(8月6日夜7:15 WOWOWシネマ)や、米サンフランシスコの風景もまぶしい山口百恵&三浦友和共演の『ふりむけば愛(1978)』(8月7日夜7:15 WOWOWシネマ)といった初期のチャーミングな作品群も、遊び心に満ちた“A MOVIE”のオンリー・ワンの味わいでいっぱいだ。2020年には新作『海辺の映画館-キネマの玉手箱-』の公開も控える。令和の夏、まだまだ大林宣彦ワールドの季節は終わらない。

文=森直人


 


1971年和歌山生まれ。著書に「シネマ・ガレージ」など。近刊「フィルムメーカーズ 大林宣彦』(宮帯出版社)にも執筆参加。

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