真夏のホラー映画は監督で選ぶ! 2010年代ホラーの衝撃作4選<ザテレビジョン シネマ部コラム>

2019/08/13 07:00 配信

映画

「ゲット・アウト」 (c) 2017 Universal Studios. All Rights Reserved.


古くからホラー映画は“ブーム”が生まれやすいジャンルだ。1930年代のハリウッドでユニバーサルのモンスター映画が人気を博したのを皮切りに、1970年代には「エクソシスト(1973)」の社会現象化をきっかけにオカルト映画がブレイク。1980年代から1990年代にかけてはスプラッターやスラッシャー・ムービーが大量生産され、2000年代にはゾンビ映画のバリエーションが飛躍的に拡大するとともに、POV(主観ショット)形式のホラーが大流行した。

その点、2010年代はこれといったブームが巻き起こっていないようにも思えるが、ホラー・ジャンルが停滞しているかというとそんなことはない。むしろ「イット・フォローズ(2014)」のデビッド・ロバート・ミッチェル、「ババドック ~暗闇の魔物~(2014)」のジェニファー・ケント、「マーターズ(2007)」のパスカル・ロジェ、「ウィッチ(2015)」のロバート・エガース、「RAW 少女のめざめ(2016)」のジュリア・デュクルノーといったオンリーワンの才能を持つ新進監督たちが次々と台頭し、“ホラー”とひとくくりにすることがはばかられるほどのユニークな恐怖映画が異彩を放ってきた。

もともとホラーは設定や演出上の“お約束”を手際よくこなせば、そこそこ怖くて楽しめる作品が出来上がるジャンルだ。しかし、それはマンネリの退屈さと背中合わせであり、“お約束”の安定感を突き破ったときに初めて“新しい恐怖”が創出される。上記の2010年代作品には、ホラーの定型にとらわれない若きフィルムメーカーたちの野心がみなぎっていた。

その流れは2010年代が終盤に突入した昨今も持続しており、今回WOWOWで催される【真夏のホラー大特集 全16作品一挙放送】のラインナップがすばらしい。“量”も圧巻だが、それ以上に“質”の高さがすごい。2017年後半から2018年にかけて日本公開され、大いに話題を呼んだホラーの衝撃作、異色作を網羅しているのだ。

「ゲット・アウト」(c) 2017 Universal Studios. All Rights Reserved.


目玉となるのは、ずばり「ゲット・アウト(2017)」(8月25日夜9:00 WOWOWシネマ ほか)と「ヘレディタリー/継承(2018)」(8月18日夜9:00 WOWOWシネマ ほか)だろう。著名コメディアンのジョーダン・ピールが鮮烈な監督デビューを飾った「ゲット・アウト」は、白人である恋人の実家を訪ねた黒人青年の悪夢のような運命を映像化。人種差別というセンシティブなテーマを恐怖とブラックユーモアに転化させた作風は実に巧妙で、予測不可能なサプライズ描写も満載だ。第90回アカデミー賞において、ホラーとしては異例の作品賞、監督賞、主演男優賞のノミネートを果たし、脚本賞を受賞した成果も特筆に値する。

【写真を見る】恐怖の表情がすごい! トニ・コレットの怪演(c) 2018 Hereditary Film Productions, LLC


同じく新人のアリ・アスター監督作品「ヘレディタリー/継承」の独創性も並外れている。えたいの知れない超自然的な魔力にむしばまれていく家族を主人公にした一種のオカルト映画なのだが、ミニチュア模型というモチーフを取り入れたトリック撮影が秀逸。まるで人間を手玉に取る“悪魔の視点”を表現したかのような、アーティスティックなセンスにうならずにいられない。救いのないストーリー展開も凄惨を極め、一家の母親に扮したトニ・コレットの怪演にド肝を抜かれること必至である。

「クワイエット・プレイス」(c) 2019 Paramount Pictures. All Rights Reserved.


“音”に反応して襲い掛かってくる謎の外来生物によって、人類の大半が死滅した近未来を舞台にした終末ホラー「クワイエット・プレイス(2018)」(8月31日夜8:00 WOWOWシネマ ほか)も必見の出来栄えだ。“静寂”を保つというサバイバルのルールを厳守することで奇跡的に難を逃れてきた親子4人の姿を、せりふを極端に切り詰めた繊細な音響設計で描出。実生活でも夫婦のエミリー・ブラントジョン・クラシンスキーが共演し、監督を兼任したクラシンスキーが極限状況下の息詰まるサスペンスと、家族の絆を巡るヒューマン・ドラマを見事に融合させた。

「テルマ」 (c)PaalAudestad/Motlys


デンマーク出身のヨアキム・トリアー監督が、ノルウェーのオスロを舞台に撮り上げた「テルマ(2017)」(8月28日夜11:00 WOWOWシネマ ほか)は、夢幻的な映像美に魅了されるサイキック・ホラー。大学1年生の女子大生が超能力に目覚めていくさまを、初恋や宗教的抑圧に揺らめくヒロインの精神状態と連動させたアイデアが興味深い。テレキネシス(念力)、パイロキネシス(発火能力)などのサイキック描写に工夫が凝らされ、ふんだんに盛り込まれた北欧の詩的な情景にも目を奪われる。

「ゴースト・ストーリーズ~英国幽霊奇談~」 (c) GHOST STORY LIMITED 2017 All Rights Reserved.


「ウィンチェスターハウス アメリカで最も呪われた屋敷」(c)2018 Winchester Film Holdings Pty Ltd, Eclipse Pictures, Inc., Screen Australia and Screen Queensland Pty Ltd. All Rights Reserved.


以上の4作品のほかにも、イギリス発のヒット舞台劇を変則オムニバス風に映画化した「ゴースト・ストーリーズ~英国幽霊奇談~(2017)」(8月21日夜9:00 WOWOWシネマ ほか)、「ジグソウ:ソウ・レガシー(2017)」の双子監督スピエリッグ・ブラザーズが実在する巨大幽霊屋敷の伝説に挑んだ「ウィンチェスターハウス アメリカで最も呪われた屋敷(2018)」(8月23日夜9:00 WOWOWシネマ ほか)など、バラエティに富んだ作品がずらり。ホラーにおける恐怖表現の可能性を広げた監督たち、その暗く魅惑的な輝きを放つ才気に注目してほしい。

文=高橋諭治


 


純真な少年時代に恐怖映画を観すぎて、人生を踏み外した映画ライター。世界中の謎めいた映画と日々格闘しながら、毎日新聞、映画com.などで映画評を執筆している。