どうやら冨永監督回は「主人公がキャンプに行って魚を釣って食べる」らしい。わー、何だか面白そう。一方横浜回は「主人公がキャンプに行って缶詰食べる」。ひとりでキャンプ行って缶詰?葛藤も成長も見当たらぬ。「え、それってドラマになるっけ?え…」という戸惑いと共に企画が始まった。
ところがキャンプというやつのふたを開けると、風も吹けば雨も降る。獣の気配に虫刺され。寒くて暑い。腹が減る。六感はいつもフル稼働、自然はおろか自分自身すらままならないという事実に出会う。そんなままならなさの集積ののち、「食って寝る」ことにありつける一日はほとんど奇跡だ。あ、ドラマはちゃんとここにあった。
主人公・健人の「ドラマ的成長」はと言えば、「特に成長しないこと」に尽きる。時に人に出会い助けたり、助けられたりするけれど、それは彼の頬を撫でるほどの薫風に過ぎず、彼が感情をあらわにするのはほとんど自然に囲まれて一人、口の中に缶詰料理とお酒を入れモグモグさせている瞬間だけなのだ。
変化とか成長とかうさんくさい言葉に人生をかすめ取られたりしない、孤粋なソロキャンパー、健人と七子。二人がとても好きだ。見てくださいね。
夏帆さん演じる主人公の七子は、一緒にキャンプに行った友だちが急に帰ってしまって、やむをえずソロキャンプに挑戦することになります。食べるものはありません。しかしたまたま出会った釣り人に手ほどきを受け、思わぬ収穫に恵まれます。
そして釣ったばかりの小さな魚をテントの前で唐揚げにして食べたとき、彼女の中に眠っていた「取る」スイッチが点灯したのでしょう。それから毎週末のように、魚やキノコや山菜を求めて一人で、山や海に通うようになるのでした。
初夏の撮影現場では、夏帆さんに実際に魚を釣ってもらおうと、磯釣りや渓流釣りにチャレンジしてもらいました。撮影前に僕が「小さいのなら釣れると思いますよ」なんて言ったものだから、夏帆さんも釣りを楽しみにしていたようです。
また僕の方も、夏帆さんに本当に釣ってもらいたくて、過去に僕自身がそこそこ大きなメジナやクロダイを釣った実績のある磯を、ロケ地に選びました。
つまり僕は、釣り初心者の夏帆さんが「初めて釣った」貴重な瞬間を、主人公・七子の「ようやく釣れた」感動の場面に重ねようとしていたわけです。
撮影に際しては、キノコ狩り名人、プロ釣り師、釣りインストラクター、捕まえて食べる名人、など多くの方の監修に助けられました。夏帆さんは釣りにハマってしまったようで、それを知った関係者がこぞって「夏帆さんに釣りを教えたい」と言い出しました。
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