三浦:ラチェットレンチは、サスペンス劇団と言いつつも揺れがあって、大春さんの中でも劇団員の中でも揺れている。僕は一貫して、落語を押しております。
大春さんはアマチュア落語家だから下地もしっかりある。落語とキャッチ―なものとを掛け合わせてエンタメに仕立てられるのは強いなと思います。
「ラクゴ萌エ」の話を聞いた時は、女性の落語家をどうやるか、それは難しいよ、という話にもなったんだけど、女性落語家に注目させるという取り組みも少なかったし、落語とかけ離れている漫画との組み合わせとか、下手をすると怒られそうなところは逆に狙い目かもしれないとも思いました。
――「幕末サンライズ」に登場する柳亭燕枝という落語家をどのように見つけたのですか?
大春:幕末をテーマに設定しましたが、幕末の落語家というと、圓朝(三遊亭圓朝)になっちゃうと思うんです。知っている劇団が落語がテーマの芝居をやった時にも圓朝を主役にしましたし。そのまねをしたくない気持ちもありましたが、みんなが知っている人物は書いていて面白くないんですよ。いじりづらいですし。
三浦:誰もが知っているキャラクターをめちゃめちゃいじってますけどね(笑)。
大春:幕末テーマで、とにかく坂本龍馬と新選組は出したくないというのはあった。動乱の切った張ったの時代で、叫んで斬り合うようなアクションエンタメの作品は多いんですよ。その種の作品はアクション好きの方には認められると思うんですけど、僕はちょっと好きじゃない。できるだけ殺陣もやらない方向でしたけど、まあ、物語上やらざるを得ない。華やかさもあるし。
三浦:殺陣はほんの少しですよ。
大春:こだわりとして、落語の要素は入れなきゃいけない。僕はもともと長州藩が大好きで、一番好きなのは高杉晋作なんですけど、そうなると松陰先生を描かざるを得ない。
それで圓朝と松陰となると、有名人同士になっちゃうから、初めはオリジナルキャラを作って、オリジナルキャラと松陰に仕立てようと思ったんです。
オリジナルだと、今度は逆に圓朝を出さないと幕末感が出ないという気持ちになり、そこはリアルな人がいた方がいいと思って、調べていったら、柳亭燕枝が見つかった。
でもどんな人なのか、あんまりよく分からない。よく分からないならいじれるなと。圓朝のライバルだった、という一言があればいける。それで名前だけを借りる形で、実在の人物とは、全く関係のないキャラクターに仕上げました。
三浦:企画した時は、「幕末と落語を絡めたら楽しいじゃないですか」くらいでぶん投げてしまって、ホントすみません(笑)。無責任にキャッチ―なものと落語を掛けるというアイデアをポーンと出しただけですけど、それを井上さんも面白がってくれて。
この記事の関連情報はこちら(WEBサイト ザテレビジョン)