当初は「あまりに普通のキャラすぎて、最初はどう演じていいか、よく分からなかった」と不安を隠し切れなかった川栄だが、その“普通さ”はこれまで映画やドラマ、CMなどで演じてきた、親しみを感じさせる親友キャラの延長線上ともいえ、ゼロの状態から酒造りを学んでいく詩織の姿には、誰もが共感を覚えるはずだ。そんな見知らぬ地で不安を抱える詩織を優しく見守り、指南する蔵元を演じているのが、今は亡き大杉漣。俳優の先輩後輩としての2人の関係性が、劇中で各々が演じるキャラクターとシンクロしていくのも、深い味わいを醸し出している。
名曲をモチーフにしたヒューマンドラマ『Watch with Me -卒業写真-(2007)』や、大分県宇佐市のご当地映画である『カラアゲ★USA(2014)』などを手掛けてきた瀬木直貴監督は、ヒロインの成長と恋、その地方の美しい風景や現状といった両作のテイストを巧く調合しながら、持ち前の丁寧な演出により、女優・川栄李奈の魅力を存分に引き出している。
今年5月、2018年に出演の舞台「カレフォン」で共演した廣瀬智紀との結婚及び妊娠を発表。「30歳ぐらいに、自分の代表作といえる作品に出会いたい」と語っている彼女だが、間違いなく彼女にとっての転機作となった『恋のしずく』は、今後その礎となっていく一作といえるだろう。
1971年生まれ。TV番組制作、『映画秘宝』編集部を経て、映画評論家に。雑誌、ウェブ、劇場パンフレットなどに映画評やインタビュー記事を寄稿。
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