カルト的人気を誇るSF映画「ゼイリブ」日本公開から30年! 現代で再注目される理由とは? <ザテレビジョンシネマ部>

2019/10/29 14:57 配信

映画

『ゼイリブ』(c) 1988 STUDIOCANAL S.A.S. All Rights Reserved.


『ハロウィン(1978)』や『遊星からの物体X(1982)』などで知られるハリウッドのレジェンド、ジョン・カーペンター監督の『ゼイリブ(1988)』(10月30日夜11:30 WOWOWシネマほか)が、2019年に日本劇場公開30周年(日本初劇場公開は1989年1月)を迎えた。

クエンティン・タランティーノ監督やロバート・ロドリゲス監督らがカーペンター監督をリスペクトしてきたことで彼の評価が年々増していき、とりわけ『ゼイリブ』は破天荒で痛快な設定と、現代にも通じる社会風刺の要素が強く、初公開当時よりも熱いカルト人気を得ている。

不景気で経済格差が広がり、職探しのために米LAにやって来たホームレスのナダ(ロディ・パイパー)は、なんとか日雇いの肉体労働職を探し当てる。偶然見つけた黒い特殊偏光サングラスを掛けてみると、LAが不気味な異星人に侵略されている現実を知ることに…。

【写真を見る】LAが不気味な異星人に支配される!(c) 1988 STUDIOCANAL S.A.S. All Rights Reserved.


異星人はドクロのような顔をし、目に星のような瞳を持つヒューマノイド型だが、LA全体に特殊信号を流すことで、人間には普通の人間と同じに見える。

THEY(彼ら)は、人間社会に静かに侵入しLIVE(生きている)。人間社会の富裕層を取り込みつつ、貧困層にはお金や欲しいものを分け与え、仲間にしていく。人間に化けた異星人は、社会の中核を担い、会社や企業で瞬く間に出世していき、彼らに取り込まれた人間たちも出世する。『インデペンデンス・デイ(1996)』のような物量的な破壊侵略ではなく、地球を植民惑星にして地球の資源を搾取しているようだ。

それに対抗するのが、ホームレスのナダで、SFアクション映画の主人公が貧困層というのが珍しい。ナダは、アルファベットにするとNADAで、スペイン語で“何もない”、“無”を意味する。地位もお金もない彼にあるのは、真っすぐに生きてきた人間らしい心と頑強な肉体だけ。カーペンター監督は、存在感だけでそれをにじませることができるような人物を探して、プロレスラーのロディ・パイパーを大抜擢した。

職にあぶれた一因に異星人の存在があった衝撃、と同時に人間の欲に付け込んで魂を骨抜きにするような彼らへの怒り。まるでブラック・ジョークのような資本主義のなれの果て…彼らに骨抜きにされて平気な人間たちも許せなかったのだろう。ナダには、カーペンター監督が求める反権力(反体制)のキャラクターが集約されている。

『ゼイリブ』(c) 1988 STUDIOCANAL S.A.S. All Rights Reserved.


そんなナダの熱い思いが、後に相棒となるフランク(キース・デヴィッド)との長いストリート・ファイトとして結実した。男同士の長い殴り合い(プロレス技も登場)は、批判的に揶揄されることもあるが(笑)、ファンの間では語り草となり、代表的な名場面のひとつになっている。

カーペンター監督は、80年代のロナルド・レーガン米国大統領による経済政策レーガノミクスの弊害を背景に盛り込んだ。経済復興と強い米国を復活させようとしたレーガンだったが、富裕層は満足したものの失業者が続出し、ホームレスなる語が日本でも定着したのはこの頃だった。

それが今、ドナルド・トランプ米国大統領になって、強引な経済政策により一部で熱狂的な支持を集め、強い米国の復活をうたって、“MAKE AMERICA GREAT AGAIN(米国を再び、偉大に)”と声高に叫ぶ。レーガンと似たようなイメージ戦略のトランプの出現により、皮肉にも『ゼイリブ』が再び注目されるようになった。もちろんトランプは異星人側だ。

『ゼイリブ』はカーペンター作品中、社会派のメッセージを最も濃厚に感じさせる傑作だが、彼の作品を愛する者なら、監督が愛するウエスタンの要素をも強く感じるだろう。カーペンターがアラン・ハワースと共に作曲した主題曲はもろウエスタン調だし、ストーリーも、風来坊が街にふらりとやって来たら、街が悪漢たちに牛耳られていて戦いに立ち上がるという典型的なウエスタンの図式を取っている。

またカーペンターは異星人を、食屍鬼を意味する“グール”と呼ぶ。人間を食べるわけではないが、魂を売った人間をむしばむ要素と、彼が敬愛する怪奇幻想作家H・P・ラヴクラフトの小説にも登場する“グール”から命名した。

『ゼイリブ』は過去に埋もれた作品ではなく、今も生き続けている。

文=鷲巣義明


 


映画文筆家。映画宣伝会社を経て、フリーランスの映画ライターになる。雑誌、書籍、映画パンフレット、パッケージ・ソフトのリーフレット、Web媒体などに執筆中。著書に『ホラーの逆襲 ジョン・カーペンターと絶対恐怖監督たち』『恐怖の映画術 ホラーはこうして創られる』などがある。