松田優作没後30年 最初で最後のハリウッド映画『ブラック・レイン』の衝撃<ザテレビジョンシネマ部>

2019/11/06 07:00 配信

映画

『ブラック・レイン』(c)1989 by Paramount Pictures Corporation.


リドリー・スコット監督やマイケル・ダグラスも立ち会ったオーディションにて、ネクタイを手錠に見立てて手首へ結び、それで迫真のパフォーマンスを見せて優作は2人を驚かせたという。また、タイトルの“ブラック・レイン”とは原爆投下後に降る黒い雨を指すが、比喩的に、日本とアメリカの歴史の歪みから誕生した怪物=佐藤のことを示しており、ここから類推して計り知れないキャラへと膨らませたのも彼ならでは。本作公開後、ハリウッドからはいくつものオファーがあり、敬愛するロバート・デ・ニーロとの共演作も企画されていたのは有名な話だろう。

だが、この映画の撮影中、松田優作は病魔に侵されていた。不意に止まってしまった時間…不条理な現実に打ちのめされながら、残された者たちは今も「オレの優作、ワタシにとっての優作」を語り合う。できることはそれしかないし、時を経てもその男は、存在の輝きを微塵も失っていないのだから。“卒業”なんて不可能、きっと我々は彼に、永遠に解けない魔法をかけられてしまったのだ!

文=轟夕起夫


 


ライター。『キネマ旬報』『映画秘宝』『クイック・ジャパン』『ケトル』『DVD&動画配信でーた』などで執筆。モデルとなった書籍『夫が脳で倒れたら』が発売中。